シニア向け健康維持・増進のための運動
第5回「健康寿命を延ばすための効果的なトレーニング」
2021/03/19
コロナ禍においては、高齢者の感染による重症化が懸念されていますが、自粛生活が継続する中で、シニア層が積極的に健康の維持・増進を図ることが重要になってきています。また、国の施策である「健康長寿社会の実現」に向けてもシニア層が筋力トレーニングやスポーツなどの運動を含めた身体活動を行うことが重要視されています。そこで、今回はアスレティックトレーナーとして競技スポーツのチームやアスリートのトレーニングのサポートから、シニア・ジュニア向けの健康対策に至るまで幅広く活動されている、㈱ワイズ・スポーツ&エンターテインメントの山本晃永代表に、シニア向けの健康維持・増進対策についてインタビューし、その内容を2回にわたり掲載していきます。
心も体も元気に輝いて頂く
Q1.山本さんがアスレティックトレーナーを目指されたきっかけは何だったのでしょうか。
A1.大学卒業後は、スポーツに関わる仕事をしたいと考え、フィットネスクラブの会社に就職しました。そこで多くのスポーツ選手と接し、パフォーマンスを上げるための“トレーナー”の重要性を認識したのをきっかけに、アスレティックトレーナーを目指すことを決意しました。
当時はまだ日本にトレーナーの資格がなかったので、アメリカに渡り、全米トレーナー協会公認アスレティックトレーナーの資格を取得しました。帰国後は、Jリーグの選手などとパーソナルトレーナー契約をし、仕事の幅を広げていきました。今の会社を立ち上げたのは2004年。その後、2016年にワイズ・スポーツ&エンターテインメントに社名変更し、現在に至っています。今、競技スポーツのトレーニングのサポートとともに、全力で取り組んでいるのは「健康」と「福祉」です。
施術中の山本晃永氏
Q2.競技スポーツに加え、国民の健康増進分野にまで活動を広げられたきっかけは何だったのでしょうか。
A2.トレーナーとして活動をしていく中で、契約していた選手のトレーニングや、チームの子どもたちのリハビリ環境を作りたいという思いが強くなり、マイクロジムを作ったのがきっかけです。その後、経営の基盤を築くために介護事業にも参入しました。既存施設と提携したのではなく、一から始めたので、保険制度、介護業界のことなど、トレーナーとしての知識以外のことを一から勉強しなければならなかったので苦労しましたが、その経験が現在の活動に生きています。
Q3.事業の一つとして実施されている、「シニア・デイサービス」について教えてください。
A3.高齢者の「介護予防」「自立支援」を目的にデイサービスを行っています。アスレティックトレーナーとしての専門性を活かし、エンターテインメントのプログラムも取り入れた斬新なデイサービスは、超高齢社会の日本に必ず貢献できると確信しています。高齢者の健康と機能低下には「ロコモティブシンドローム*1」「サルコペニア*2」という、運動機能と筋力が落ちていく特性がありますが、これに加え「フレイル*3」には、身体だけでなく精神面の活力の低下も含まれます。私たちのデイサービスは身体も心も元気に輝いて頂くことを目的にしているので、「フレイル」予防には最適なデイサービスだと思います。
*1 ロコモティブシンドローム
運動器の障害や 衰えによって、 歩行困難などの移動機能の低下をきたした状態のこと。2007年に日本整形外科学会によって新しく提唱された概念。
*2 サルコペニア
加齢や疾患により、筋肉量が減少することで、全身の筋力低下が起こったり、歩行スピードが遅くなるなどの身体機能の低下が起こること。
*3 フレイル
加齢により心身の活力(運動機能や認知機能等)が衰える状態のことで、健常な状態から日常生活でサポートが必要な要介護状態の中間の段階を意味します。
Q4.シニア層にとっては“健康寿命をいかに延ばしていくか”が課題となりますが、そのために効果的なトレーニングを教えて下さい。
A4.私たちが「最適運動」とよんでいるトレーニングです。65歳の前期高齢者も80歳後半の後期高齢者も同じ運動が効果的ということはあり得ません。競技スポーツの分野でも、年の差が20歳以上離れた選手ではトレーニングの段階性や強度、量も同じではないはずです。そこで大事にしているのは、トレーナーがマンツーマンで行うパーソナルトレーニングです。その方のどこの機能が落ちているのか、この方は身体にどういう特徴があるのだろうか、というような個人の身体機能を、姿勢を静止画像で撮影したり、簡単な動きを動画で撮ったりして、しっかりと評価していきます。その情報からファンクショナルトレーニング(身体の機能を高めるためのトレーニング)やリハビリで改善し、次に筋力トレーニングを行っていく、という流れでやっています。
パーソナルトレーニング
自宅でもトレーニングを
Q5.シニア層の筋力トレーニングではどのようなことを意識して指導されていますか。
A5.高齢者の筋トレの目的は、筋肉隆々にすることではなく、日常生活の中の諸動作をしっかりと行えるようにすることです。そのほかにも、姿勢を維持すること、内臓を守ること、さらにエネルギーを代謝することも重要な目的です。また、最新のスポーツ科学の分野では、筋肉から“マイオカイン*4”というホルモンのような物質が出て、それが脳や内臓に作用し、認知症やガンの予防にまで結びつくという研究報告もあります。このように、単に筋トレと言っても様々な効果が期待できるので、高齢者にも筋トレが必要なのです。ただしやり方によっては怪我のリスクも伴うので注意が必要です。筋トレによる怪我は、筋肉の収縮方向に対して筋肉が縮むように力を加える「コンセントリック収縮」時より筋肉が収縮方向とは逆に伸ばされながら筋力を発揮する「エキセントリック収縮」時に多いといわれています。例えば、腕などを上げた時よりも下してブレーキをかける動作の時に発生しやすいです。私たちは、エキセントリックな負荷がかからない筋力トレーニングマシンを開発し、スピードをモニタリングしながら、安全かつ効果的にトレーニングを行っています。
*4 マイオカイン
筋肉作動物質のことで、筋肉から分泌される”ホルモン”の総称。近年、マイオカインの作用に注目が集まっており、現在世界中で研究がさかんに行われています。中には、大腸がんを抑制するマイオカインや体内の糖分や脂肪分を効率的に消費するマイオカインがあると報告する論文も発表されています。
筋力トレーニング
Q6.有酸素トレーニングとはどのようなことですか。また、シニア層におすすめの有酸素トレーニングを教えてください。
A6.有酸素運動とは、ウォーキング、ジョギング、エアロビクス、サイクリングなど一定時間継続して行う運動を指します。これらの運動は、運動中に筋を収縮させるためのエネルギーを体内の糖や脂肪が酸素とともに作り出すことから、有酸素運動と呼ばれています。高齢者にも有酸素運動は大切ですが、機能を評価して、どのような有酸素トレーニングが行えるかを選択することが重要です。歩行がしっかりできるようであれば歩行で良いですし、膝や腰が痛くて長時間歩くことができない方は、エアロバイクやニューステップなどのマシンを使うことも効果的です。並行して、ファンクショナルトレーニングやリハビリ、筋トレも行うことで、最も身近な有酸素運動である歩行も徐々に行えるようにしていくのが良いのではないでしょうか。
有酸素トレーニング
Q7.山本さんがトレーニングに取り入れていらっしゃる足部機能向上トレーニングについて教えて下さい。
A7. 歩行やバランス機能に大切な足部の筋力や可動性をトレーニングしていきます。足部機能というのは、今までスポーツの中でもあまりクローズアップされてこなかったのですが、最近では、足の構造や機能について研究されるようになってきました。手では“握力”、足では“把持力”と呼ばれるものですが、これが、歩行する時の推進力や体のバランスに影響してきます。高齢者の寝たきりの原因のひとつとして、転倒による骨折がありますが、その予防として、バランス維持機能である足部をトレーニングしておくことは重要です。トレーニングの前には、効果を高めるために、アスリートにも使用している「高濃度炭酸泉」を「足浴」として提供し、アロママッサージを行った後、足部の筋力や可動性のトレーニングを楽しく行っています。
足部機能向上トレーニング
Q8.コロナ禍で外出を控えているシニアに向けて、自宅や庭などで簡単にできるトレーニングを教えて下さい。
A8.いくつかご紹介しましょう。
インナーマッスルの強化(写真1参照)
一つ目は、椅子に座った状態でボールを太腿にはさみながら、両腕を腰に添え、ウエストを凹ませてぎゅっぎゅっとプッシュする運動です。最初のポジションで背筋をしっかり伸ばし、姿勢を整えた上でウエストを刺激しましょう。そうすることで、多くのインナーマッスルの強化に効果的です。高齢者の方でも簡単にできますのでおすすめです。
股関節の強化(写真2参照)
次は、横になってバンドを両足にはめ、片足ずつ屈曲させる運動です。これを10回から20回、ご自分の体力に合わせて行ってみてください。股関節の強化に効果的です。
腿の筋肉の強化(写真3参照)
最後は脚を前後に開いた姿勢から、前脚のもも前にブレーキをかけるように膝を曲げていきます。この運動も高齢者でも危険が少なく、腿の筋肉強化に効果的です。
今回紹介した運動に使用する器具は、100円ショップ等でも安価に購入できます。
インナーマッスルの強化
股関節の強化
腿の筋肉の強化
Q9.サロメチールシリーズは、運動前後の筋肉ケアや肩こり、腰痛・関節痛などに有効な外用消炎鎮痛薬ですが、山本さんご自身や指導の中でお使いになることはありますか。
A9.スポーツの現場では結構使います。ウォーミングアップでは「サロメチール」を使って血行を良くしたり、トレーニングの後は鎮痛効果を期待して「サロメチールジクロα」や「サロメチールジクロゲル・ローション」などを部位や痛みの範囲に応じて使用しています。サロメチールシリーズは種類や剤形のバリエーションが多く、目的に応じて使い分けられるので助かりますね。
この記事で紹介された製品
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今回の先生
㈱ワイズ・スポーツ&エンターテインメント代表取締役山本晃永さん
経歴
Jリーグ、サッカー日本代表や高校選抜、プロ野球などのトレーナーを経て、2004年の起業後は多くの育成年代チームのサポートやトップアスリート・俳優のパーソナルトレーナーも務める。、そのほか、ジュニアやシニアの運動プログラムの開発、近年ではトレーニングマシンの開発や運動施設のプロデュースも行っている。トレーニング関連著書も多数。日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー、全米トレーナー協会公認アスレティックトレーナー、順天堂大学大学院スポーツ科学研究科修士課程修了。