筋肉疲労・筋肉痛

筋肉疲労は“筋肉のショック状態”

普段あまり運動をしない人が急に激しい運動をしたときや、立ち仕事を長く続けたとき、あるいは家事や育児で同じ動作を繰り返すときなど、筋肉に対して重い負荷をかけることで筋肉周辺組織がこわばり、パフォーマンスが低下してしまう状態が筋肉疲労です。 筋肉疲労を起こす原因について、疲労物質である「乳酸」が溜まるために起こるというのが通説。これは運動中の筋肉の収縮によって筋肉内の酸素が不足し、エネルギー源であるブドウ糖の不完全燃焼が起き、その燃えカスといえる「乳酸」が筋肉を収縮させて血行を妨げ疲労につながるというメカニズムです。 しかし最近、この「乳酸」自体が疲労をまねくのではなく、「乳酸」はむしろ結果として発生するもので、逆に疲労を抑制するエネルギー源として働いているという説が注目を集めています。その場合、筋肉疲労を引き起こすと考えられているのが、筋肉組織の炎症です。運動によって筋肉組織が傷つくことで炎症が起き、そこで発生する痛みの物質が「筋膜」を刺激することで疲労が起きるという、こちらの説は筋肉痛とほぼ同じメカニズムです。 どちらにしても筋肉疲労を引き起こす原因に、「過度」「長時間」というキーワードは共通で、疲労状態になった後、数時間から翌々日の時間差で起きてくるのが、筋肉痛。運動中に起こる急性の筋肉痛もありますが、多くは激しい運動、長時間の運動によって傷ついた筋肉組織が、運動後に少しずつ修復していく過程で起こる痛みのことを筋肉痛とよんでいます。

筋肉疲労・筋肉痛のメカニズム

例えば、腹筋運動やスクワットといった筋肉の収縮運動を繰り返すとき、筋肉を縮める動きと伸ばす動き、どちらの負荷がより大きいと思いますか?実は、より筋肉が疲れやすく筋肉痛になりやすいのが、筋肉を伸ばしながら力を発揮する「伸張性の運動」(エキセントリック運動)といわれています。筋肉が収縮するときよりも、伸ばすときのほうが負荷が大きく、筋肉繊維が傷つくことが多いのです。この「伸張性の運動」によって損傷した組織が炎症を起こし、その炎症によって産生されるのが、痛みを引き起こす発痛物質です。ブラジキニン、ヒスタミン、セロトニン、プロスタグランジンといった発痛物質が「筋膜」を刺激することによって、筋肉痛として感じるのではないかと考えられています。

伸張性の運動・・・実際の動作でいえば、階段を上るときよりも階段を下りるとき、重いものを持ち上げるときよりも下すときの筋肉状態です。

予防のポイント筋肉は太く・やわらかい状態を保つこと
日頃の運動
筋肉は使わないでいると細くなり、細く弱くなった筋肉は少しの運動でも繊維が傷つきやすくなります。普段から適度な運動を行い筋肉を動かすことによって筋繊維が発達し、筋肉は太く大きくなります。太い筋肉が増えるほどすみずみまで酸素がいきわたり、体は動きやすくなり、また全身の血行が良くなるため疲れにくくなります。
筋肉に良い食事
太く傷つきにくい筋肉をつくるために、運動とともに心がけたいのが栄養バランスのとれた食事です。筋肉のためには、主食に加えて良質なタンパク質、野菜や果物、乳製品をプラスすると良いでしょう。運動中は筋肉中のグリコーゲンが多く消費されます。筋肉痛を予防し疲労回復を早めるためには、運動後にできるだけ早く糖質(炭水化物)や良質なタンパク質を補給し、消費したグリコーゲンを補うと良いでしょう。おにぎり、バナナ、エネルギー補給飲料などがスピーディーに補給できます。
ウォーミングアップとクールダウン
筋肉疲労をやわらげる疲労回復因子は、休息によって増えると考えられています。過激な運動を長時間にわたり続けるときは、合間に十分な休憩時間をとり、回復因子を適宜増やすよう心がけましょう。運動中に筋肉が疲労しても自覚症状があまりないため、つまづく、転ぶなど思わぬケガにもつながります。久しぶりに運動をする前には必ずウォーミングアップを行って血行を良くし、筋肉をストレッチしてやわらかくしておきましょう。また突然運動をストップしてそのままにするのではなく、徐々に軽い運動をしながらクールダウンし、筋肉が熱をもっているようなら患部を冷却することも大切。 緊張した筋肉は入浴中にマッサージをしてほぐし、溜まった乳酸を拡散しておくことも忘れずに。その後は、疲れた筋肉を十分に休めること。筋肉組織の修復を早めるために質の良い睡眠を心がけましょう。
筋肉疲労・筋肉痛のケア

筋肉疲労はその原因によって対応が変わります。激しい運動による筋肉疲労には、体を休ませリラックスさせること。一方、デスクワークなどずっと同じ姿勢を続けることで起きる筋肉疲労は、逆に軽く体を動かし血液循環を促したほうがラクになります。過度な運動による疲労も、同じ姿勢を続けた疲労も、どちらも筋肉の血流不足の解消が早期回復の鍵です。湿布や塗り薬を上手く使うことで血流を促し、疲労や痛みの症状の早期改善へと導きます。

肩こり

肩周辺の血行が悪くなることで生じる「こり」

健康な筋肉にはほどよい弾力があります。そしてこれは、筋肉を形成している細胞内に水分や血液がスムーズに循環していることが基本となります。しかし、同じ姿勢をずっと続けていたり、過労や睡眠不足が続いたり、ストレスなどが溜まったりすると血行が悪くなり、その結果、筋肉が腫れ、動きが硬くなっていきます。こうした筋肉のこわばりを「こり」といい、なかでも肩の周辺の筋肉に起こるものを「肩こり」といいます。また、これは意外に思われる方も多いかもしれませんが、肥満も「肩こり」の原因のひとつです。太ってくると、筋肉内に脂肪が蓄積します。そうすると、筋肉を保護している筋膜の中で筋肉自体が締めつけられたような状態になり、血行が悪くなるため、「こり」が発生してしまうのです。

肩こりのメカニズム

正常な状態の筋肉は、筋肉内に溜まった乳酸などの疲労物質が血液中の酸素によって分解されます。しかし、仕事などで長時間、同じ姿勢を続けていたり、緊張が続いたりすると筋肉は硬くなり、血管が圧迫されて血液の循環が悪くなります。なかでも肩甲骨(けんこうこつ)をつりさげ、腕や手先を支えている肩のまわりの筋肉は非常に緊張しやすく、また、日常的なストレスや血圧の変化、自律神経系の影響を受けやすい場所です。この肩の筋肉がこわばってしまい、筋肉内に滞った疲労物質の分解が効率的に行えなくなってしまうと、不要な疲労物質が周辺の神経を刺激して、痛みが生じる。これが一般的な肩こりのメカニズムです。

予防のポイント首や肩などの緊張だけでなく、精神的なストレスも肩こりの原因となります。
良い姿勢を心がける
首や肩などに緊張を強いるような姿勢をなるべく避け、背筋を自然に伸ばした「良い姿勢」を心がけるようにしましょう。また、仕事などで同じ姿勢を続けたり、手先を長時間使ったりする場合には、ときどき休憩をして、立ち上がって背伸びをしたり、肩をゆっくり動かしたり、首を前の方に倒しながら回すなどの軽い運動をすることをおすすめします。
運動で筋力アップ
運動不足も肩こりの原因のひとつです。適度な運動を習慣づけ、精神的な緊張をときほぐすとともに、筋力をアップさせましょう。水泳やテニスなどは自然に全身の筋肉を使うことになるスポーツであるため、健康的に筋肉を動かすという意味では適しています。
上手なストレス対策を
肩こりは物理的な緊張だけでなく、精神的なストレスが強くても起こりやすくなります。このため、生活の中でリラックスできる場を設けるようにしましょう。また、食事などではイライラやストレスの予防に効果のあるビタミンB群やビタミンC・Eなどをとるように心がけましょう。
肩こりのケア
患部を温める
入浴や温感作用のあるローションなどで、「こっている」場所を温めるようにしましょう。温めることによって血管が広がり、血行が良くなります。また、肩から首筋にかけてゆっくり時間をかけてマッサージをすることでも、同様の効果が得られます。
体操をする
筋肉を引き伸ばして緊張をやわらげるストレッチや、筋肉を強くするトレーニングなどを行うことでも肩こりをやわらげる効果があります。ただし急激な運動や過度なトレーニングは、筋肉を痛めてしまうだけで逆効果です。首、肩、腕などを中心に、無理のない範囲で行いましょう。
薬を利用する
頑固な肩こりには筋肉や関節の痛みをやわらげる消炎鎮痛剤や、血行を良くして患部の筋肉をほぐす血行促進剤、また飲み薬では、神経に作用するビタミンB群や血行を促進するビタミンEを配合したものなどが市販されています。外用剤と内服剤を併用するとより効果が高くなります。

腰痛

腰椎の後ろの神経が圧迫されることにより生じる腰痛

「足腰が大切」といいますが、腰は何をするにも負担がかかりやすい場所です。特に無理な姿勢や運動不足、不規則な生活習慣などを続けていると、腰へのダメージは蓄積され、腰痛を引き起こすこととなります。腰痛はたいていの場合は、前述のようなことが原因となって起こることがほとんどですが、まれに、尿路結石や腹部大動脈瘤、心身症などの病気が原因になることがあります。そのため、腰の痛みを感じたら、その痛みは「動いたときだけにあらわれるのか、安静にしているときでも痛むのか?」、「歩くことが困難なほど痛むことがあるか?」、「痛みは腰だけか、下半身までひびくことはあるか?」など、症状や原因をつきとめて生活面でのケアをする、あるいは医師の診断を受ける、といったことが大切です。

腰痛のメカニズム

私たちの体は脊柱とよばれる骨組を中軸として、その周りの背筋、腹筋、腰の筋肉などで支えられています。そして脊柱の腰の部分には腰椎(ようつい)という骨が5個並んでいて、それぞれ左右一体の椎間関節(ついかんかんせつ)と、椎間板(ついかんばん)で連結されています。この椎間板は、腰椎のクッションの役目をしていますが、とてもデリケートな構造のうえ、加齢とともに必要な水分が減少してしまうため、つぶれやすくなります。そこに無理な姿勢や急激な運動による重さや衝撃が加わると、腰椎の後ろに突き出ている神経根が圧迫され、腰痛を起こすのです。また、運動不足などによって脊柱の周りの筋力が衰えていると、重さが腰椎へ直接かかり、腰痛を起こしやすくなります。

急性の腰痛

一般に『ぎっくり腰』とよばれるものが大部分です。前かがみの姿勢で重い物を持ち上げたり、不自然な姿勢で急に腰をひねったりしたときに、腰に突然、激しい痛みが走り、動けなくなります。これは腰椎関節の捻挫のようなものですが、この『ぎっくり腰』は一度起きてしまうと、クセのように繰り返すことがあり、しまいには脊椎骨のクッションになっている椎間板を痛めて、神経根を圧迫し、椎間板ヘルニアを誘発する可能性もあります。

慢性の腰痛

痛みはそれほど強くはないが、常に腰が重かったり、痛かったりする。このような慢性の腰痛症は、日常生活での不自然な姿勢による筋肉の疲労や、ストレスなどの心理的要因、さらには肥満や妊娠などが原因になって起こります。そのため、症状を悪化させないためには、普段の生活習慣の改善を心がけることが何よりも大切です。

予防のポイント急性の腰痛と慢性の腰痛に大別されます。
無理のない姿勢をとる
日常生活で腰に負担をかけないよう姿勢に気をつけるだけで、腰痛の予防とケアに十分役立ちます。とくに猫背を避けて正しい姿勢を心がけ、長時間、同じ姿勢を続けないこと。また、重い物を持ち上げるときは無理をして急に持ち上げるようなことはせず、腰を落とし、膝を使って体に近い位置で上げるようにしましょう。
適度な運動を習慣づける
運動不足は腰痛を引き起こす原因のひとつ。筋力を強化して腰への負担をカバーするためにも、また、肥満を防ぐためにも、適度な運動をおすすめします。ただし、やりすぎは逆効果。激しいスポーツは避け、柔軟体操やウォーキングなどの軽い運動を習慣づけてください。
腰痛のケア
湿布薬などを利用する
腰の痛みに対するセルフケアとしては、消炎鎮痛成分が入ったテープ剤や湿布剤(パップ剤)、ローション剤の使用をおすすめします。皮膚を通して有効成分が患部に作用しますので、手軽で効果的です。また、日頃からビタミンB1・B6・B12をとっておくことも、腰痛ケアの重要なポイントとなります。