運動やスポーツに伴う痛み(2)
第12回「関節痛」
2024/01/22
前回から“運動やスポーツに伴う痛み”に着目し、そのメカニズムやケア、対処方法などについて、症状ごとにスポーツドクターのお話をお聞きしていますが、今回は引き続き多くのアスリートの治療を行われている内山英司先生に「関節痛」についてお話を伺いました。
「関節痛」の原因は関節の外と中にある
Q1.「関節痛」にはどのようなものがあるのでしょうか
A1.関節とは骨と骨をつなぐ部分のことで、これによって様々な動きが可能になります。関節周囲には関節を安定させる靭帯と、関節を動かす腱が付着しています。関節の中には滑らかな運動を促す軟骨と関節を安定させる半月や靭帯があります。腱の付着部と関節軟骨の障害が慢性的な痛みの原因になります。
加齢によって痛み出すのはほとんど軟骨です。摩耗すると動き始めが痛く、動きすぎると腫れてきます。変形性関節症に進行するとなかなか治せません。
骨を動かす腱が付着している部位は異なる組織がくっついている部位のため、つなぎ目に負担がかかりやすく付着部炎という痛みが出やすい傾向にあります。加齢により柔軟性がなくなると起こりやすくなります。
また成長期の場合は、骨が先に伸びるので筋肉や腱の伸びが追い付かず筋腱が固くなるため付着部に痛みが起こることがあります。
Q2.「関節痛」で最も多いのは「膝の痛み」だと思いますが、膝の「関節痛」について詳しく教えてください
A2.関節の外で起きる痛みとしては膝蓋腱炎があります。成長期に起こるオスグッド病*1やラーセン・ヨハンソン病*2も、筋腱の緊張が強いために付着部に痛みが出てくるもので、運動の前にストレッチを丹念にやることを推奨します。関節を捻った後に痛むのは靭帯損傷です。関節の中の話では、膝関節に半月板という軟骨の板がありますが、これが運動によって傷つくと、亀裂が入った部位が運動により余計な動きをするので痛みの原因になります。一般の生活レベルでは痛みを感じない場合でも、運動をやればやるほど痛くなります。
*1 オスグッド病
オスグッド・シュラッター病が正式名称。膝の下の脛骨結節(けいこつけっせつ)が盛り上がり、痛みが出る病気。膝に負担がかかるサッカーやバスケットボール等のスポーツがきっかけになるとされる。特に骨の成長が早い13歳前後の発育期の子どもは、その周りにある筋肉や腱の成長スピードと合わずバランスが悪くなってしまうため、発症しやすいと考えられる。
*2 ラーセン・ヨハンソン病
シンディング・ラーセン・ヨハンソン病が正式名称。膝蓋骨の下縁に沿ったところから膝蓋腱が炎症を起こす成長痛の一つ。10代前半でバスケットボール、バレーボールなど、ジャンプしたり繰り返し膝を使うスポーツによる損傷。
Q3.「関節痛」の原因やメカニズムを教えてください
A3.関節の外については、先に述べたように筋肉と腱という別組織が骨につながっている付着部には負担がかかりやすいため痛みが起こります。関節内の軟骨は本来はつるつるで摩擦係数がとても少ないのですが、加齢により少しずつ摩耗したりすると滑らかさがなくなって関節炎を起こし、水がたまるなどの症状が出てきます。軟骨が少しずつ傷んでいっても、ウォーミングアップがきちんとされていると動けますが、運動をやり過ぎると翌日に腫れぼったいような痛みが出てきます。
「ランナーズニー」という言葉をよく聞くと思いますが、ランニング愛好家に多く見られ、ランニングに伴い膝の外側に痛みが生じるものです。これは正式には腸脛靱帯炎(ちょうけいじんたいえん)と呼ばれています。腸脛靱帯とは骨盤から脛骨につながっている組織のことです。持論になりますが、走行時の骨盤のぶれを防ぐには中殿筋が必要です。この中殿筋の筋力が低下すると腸脛靱帯に負担がかかります。負担の増加による疲労のため腸脛靭帯が固くなり、膝の外側の部分でこすれるので痛みが生じます。腸脛靭帯のストレッチングも必要ですが、骨盤を安定させる中殿筋を鍛えるとよいと考えています。膝の内側の「鵞足(がそく)」と呼ばれる部位が炎症を起こす鵞足炎(がそくえん)も、ランナーに多く見られます。
Q4.「関節痛」が起こりやすい運動や競技にはどのようなものがありますか
A4.陸上選手に多いランナーズニーはオーバーユース、走り過ぎが原因です。筋肉に疲労がたまり、その結果硬くなってしまいます。腱の付着部である膝蓋腱炎も多くはオーバーユースによるものです。ただしランナーズニーは、痛みの箇所から半月板と間違えられたり診断がつきにくいことがあるので要注意です。
そのほか、不意の動作を含む俊敏な動きを伴う競技も関節を傷める可能性が高くなります。ほとんどが球技で、バスケットボール、サッカー、バドミントンなどです。膝をひねり半月や靭帯の損傷が起こります
予防はオーバーユースせずに、そして正しいフォームで
Q5.「関節痛」の予防にはまずやり過ぎないということはわかりましたが、 他にどのようなことが考えられますか
A5.ランナーですと、変なフォームで走り続けると痛みが出てきます。正しいフォームを身につけることが大切ですが、靴の摩耗が原因でフォームが乱れていることも見かけます。球技であれば投げる、蹴る、打つなどの基本動作を正しいフォームで行うことです。正しいフォームと正しい身体の使い方を合わせて教えられる指導者が身近にいることが理想です。学校の部活動における指導者の在り方が見直されていますが、トレーナーや理学療法士も含めてこれから環境が整えられていくと良いですね。
Q6.「関節痛」の症状が出たときの対処はどうすればよいでしょう。自分でできるもの、医療機関に行ったほうがよいときなどの判断の仕方を教えてください
A6.痛みが出たら、基本的にはアイシングをしてください。アイシングとは、外傷や筋肉痛、関節痛など炎症を起こしている部分を氷を使って冷やして痛みを抑制するものです。氷を当てて5~10分経つと、皮膚表面の温度が低下して神経の伝達速度が遅くなり、痛みの感覚が鈍くなるのです。これは腫れの予防にもつながります。
医療機関に行ったほうがいいのは、関節がひどく腫れたときです。その他ではずれたり、何かが挟まったり、引っかかるといった異物感があるときも医療機関での診断をお勧めします。変な音がするときなども何かしらの問題を起こしている可能性が高いので、受診してください。医療機関ではMRIを撮ると思います。これが万能かというとそうでもないのです。MRIは半月板の変化はわかりやすいのですが、軟骨の変化が描出されにくいのです。
加齢によって軟骨が摩耗すると半月板も正常ではいられません。ただこの場合、原因は軟骨にあるのに、MRI撮影だとほとんどが「半月板損傷」と診断され、「手術が必要かもしれない」という話になります。軟骨由来の痛みは、「動き始めは痛むが運動可能」、「運動後翌日の腫れ」、半月由来は「日常生活動作では痛まない」「運動に伴い痛みが強まる」を参考にしてください。
Q7.「関節痛」において治療機関で施術や手術に至るものとはどんなケースでしょうか
A7.接骨院で行うものは施術で、医療機関ではそれが手術ということになります。手術になるものは、靱帯断裂、半月板損傷が多く、特に膝では大部分が靱帯断裂、半月板損傷です。スポーツ全体の部位別でみると下肢の割合は60%と多く、その中でいちばん多いのはやはり膝です。膝の手術でいちばん多いのは前十字靱帯断裂で、その次に半月手術が占めます。
Q8.「関節痛」が起こったときに痛みを緩和するさまざまな(外用消炎)鎮痛剤(ローションやスプレー、クリーム、テープ剤、錠剤等)がありますが、これらはどのように使うと効果的でしょうか? また、それらの代表的な配合成分などについてもお聞かせ下さい
A8.市販薬でいいますと、『サリチル酸メチル』や『サリチル酸グリコール』は、局所を刺激する作用により、知覚神経に作用して痛みを抑えたり、末梢血管を拡張して血流を改善する作用があります。また、『ジクロフェナクナトリウム』や『アルミノプロフェン』は痛みや炎症のもとを抑制することができます。これらが含まれている市販薬を症状に応じて使い分けていくとよいでしょう。
この記事で紹介された成分を配合した製品
今回の先生
稲波脊椎・関節病院副院長/顧問
内山英司さん
経歴
1953年生まれ。東京都出身。都立青山高校卒業。北海道大学医学部卒業。東京大学医学部付属病院、日立総合病院等で勤務。関東労災病院スポーツ整形外科部長を19年間務め、その間日本スポーツ協会公認スポーツドクター。日本オリンピック委員会専任スポーツドクターとしてオリンピック日本選手団帯同ドクターを務める。2015年7月 稲波脊椎・関節病院副院長・スポーツ関節センター長就任。現在に至る。
★スポーツ手術で一番多いのは「前十字靭帯手術」だが、内山先生はこの手術をこれまでに4000件以上こなしており、この数字は世界的にもギネスものだと言われている。またアキレス腱断裂に対し内山式縫合術を開発し、7カ月以内に約97%が元のレベルに戻っていることから代表的な手術方法として広まっている。