日常生活に取り入れやすいトレーニング
第7回「毎日簡単に行えるトレーニング」
2022/06/27
コロナ禍以降、私たちの日常生活、社会生活の形態の変化が加速し、アスリートや一般のスポーツ愛好家にとっても日常生活の中でどのようなトレーニングを取り入れるかが今まで以上に重要になっています。そこで、今回は、「日常生活に取り入れやすいトレーニング」と題し、水泳やフェンシング等の日本代表選手のトレーニングに携わられた栗田英行さんに、様々な観点からお話をお聞きし、その内容を2回にわたってご紹介します。
毎日行う場合は部位を変えて
Q1.栗田さんが鍼灸マッサージ師やアスレティックトレーナーを目指されたきっかけを教えてください。
A1.学生時代はボート競技、大学卒業後はマスターズ水泳に励みました。水つながりではありますが、ボートは基本的に下半身のスポーツ、水泳はどちらかというと上半身のスポーツという違いがありますね。25、26歳の頃に腰痛になってしまい、鍼灸マッサージ師の先生に治療していただいたのですが、その方が体操競技のトレーナーもされていたことがアスレティックトレーナーという職業を目指すきっかけになりました。
Q2.これまでに数多くのトップアスリートのトレーニングに携わってこられていますが、とくに印象に残っている成果について教えてください。
A2.トップアスリートに関わるようになったのは、2002年に横浜で開催されたパンパシフィック水泳選手権からでした。そして2009年9月から、国立スポーツ科学センター(JISS) でトップアスリートのサポートをするようになりましたが、印象深いのはなんといっても「肩の動きが良くない」という相談を受けたフェンシングの選手です。「動きにくい」と聞くとまず揉むことを考えてしまうのですが、経験上、うまく動いていない筋肉があるのではないかと考えました。そこで刺激を加えるトレーニングを提案したところ、10回ほど反復運動をやっただけで劇的に良くなったのです。当の選手も驚いて、私を信頼してそのトレーニングを続けてくれて、オリンピックでは金メダルを獲得しました。
インタビュー中の栗田さん
Q3.「日常生活に取り入れやすいトレーニング」について教えていただきたいのですが、トレーニングは毎日行っても良いのでしょうか。
A3.同じメニューで毎日トレーニングし続けると、オーバートレーニングになる危険性やトレーニングに慣れて反応が悪くなる場合があります。毎日行う場合には、トレーニングする部位を変えるようにしてください。例えば、今日は胸を、翌日は背中を、その次の日は脚をといった具合にローテーションを組むと良いでしょう。といっても、メインの部位を変えてもそれ以外の部位を完全に休ませることができるわけではありません。しかし、体の1箇所に対する負荷は減りますので、日々トレーニングを続けることは可能です。またリハビリテーションを行う際には、トレーニングの量より頻度が大切になる場合があります。毎日行って頻度を上げることで、トレーニングの効果が上がりやすくなることがあります。ただし、競技復帰近くまでリハビリテーションが進むと、トレーニング負荷が高くなるので、このような時は毎日部位を変えてトレーニングを行うとよいでしょう。
筋肉の発達に大切なのは、運動・栄養・休養
Q4.具体的に身体の部位単位のトレーニングについてお聞きします。はじめに上半身(腕、肩、胸、腹、背中、腰等)のトレーニングについてお聞かせください。どんな効果があるのでしょうか。
A4.いちばん効果的なのは「プッシュアップ(腕立て伏せ)」(写真1)ですね。これは器具が必要なくて、手軽にできます。胸、肩、腕、腹、といった全ての部位に効果的な良いエクササイズといえるでしょう。ポイントは体幹を真っ直ぐに保った状態で行うことです。体幹が弱い人は腕を曲げるときに腰が反ってしまったり、腕の筋力があまりない人は逆に腰が上がってしまったりします。このように腕立て伏せが難しい人は、膝をつけて「膝つきプッシュアップ」(写真2)でも良いでしょう。それでもきついと感じる人は、ベッドやベンチなどに手をついて「斜め腕立て伏せ」はどうでしょうか。高齢者は壁に向かって、「立ちプッシュアップ」(写真3)でも良いですね。これでも胸、肩、腕の筋肉は動きますから、力の弱い方、女性、高齢者などにも効果的だと思います。回数は一概には言えませんが、最初は無理せず、10~15回ぐらいから始めるのが良いでしょう。
Q5.次に臀部、脚部等の身体の下半身のトレーニングについてと、その効果についてお聞かせください
A5.下半身はなんといっても「スクワット」(写真4~6)が効果的です。直立した状態から股関節の屈曲・伸展を繰り返すことで、 太ももの前側、後ろ側、臀部の筋力アップに大きな効果があり、それに加えて股関節の可動域の改善も行える一石二鳥なトレーニングです。ももの前は立ち上がるときに膝を伸ばすという動作で使っています。またハムストリング(ももの裏側)は膝を曲げる動作に使いますが、股関節を伸ばす動作でも使われます。スクワットには膝を曲げる動作も股関節を伸ばす動作も入っているので、ももの前も後ろも鍛えられることになります。
広めに足を開くと内ももの内転筋にも効果的です。基本的には10~15回、あるいは15~20回を数セット行うのが良いでしょう。
「ランジ」(写真7~8)という、自らの体重を利用して行う下半身のトレーニングも効果的です。手を頭の後ろに置き、足は前後に広げて立ちます。そして膝を曲げてしゃがみ、伸ばして立ち上がるという動きをゆっくり繰り返します。主に臀部と太ももの前側の筋肉に刺激を与えます。背中は自然なアーチを保ち、動作中に背中を丸めないように気をつけましょう。
また単純なようですが、ランニングやウォーキングも下半身のトレーニングに繋がります。
Q6.身近にある道具を使った、家庭でもできるトレーニングにはどのようなものがありますか?また、どんな効果があるのでしょうか?
A6.二の腕の緩みを改善するのに効果的な「ディップス」(写真9~10)というトレーニングがあります。フィットネスクラブであれば平行棒を用いたりして、腕で体全体を支えながら肘を曲げ伸ばしして行いますが、家庭では椅子で代用することができます。背面に置いた椅子を支えにして、肘の曲げ伸ばし動作を行います。ただし、このトレーニングは全体重を椅子にかけるので、強度の高い安定した椅子を使用し、注意して行ってください。
また、フィットネスクラブには「ラットプルダウン」という両手でバーを上から引き下ろして背中の筋肉を鍛えるマシンがありますが、固定したゴムチューブを片腕や両腕で引っ張るなどの動作でも同様の効果が見込めます(写真11)。
ダンベルか水を入れたペットボトルを両手に持って、腕を左右に上げる「サイドレイズ」(写真12~13)は、肩の筋肉を鍛えることができます。
バランスボールはいろいろな用途に使えますが、たとえば道具がなくてもできる「プランク」(うつ伏せになった状態で、前腕と肘、そしてつま先を地面につき、その姿勢をキープする運動)も、バランスボールを使うと強度を上げることができ、腹筋を効果的に鍛えることができます(写真14)。またバランスボールに座って腰(骨盤)を前後左右に動かす運動があるのですが、腰回りの筋肉がほぐれますし、腹筋のトレーニングもできるので、腰痛予防になります(写真15~17)。
Q7.競技によっても異なると思いますが、特にスポーツ選手やスポーツ愛好家にとって、試合前日や当日の朝の過ごし方として何か有効なアドバイスがあれば教えてください 。
A7. 前日だからといって特別なことをしようとしないことです。普段の延長という意識で良いのではないでしょうか。まずはしっかりと睡眠時間を確保しましょう。睡眠に関しては、試合や大会直前というより日常的にとても大切なもので、一般的には7~8時間がよいと言われています。睡眠は疲れた身体のリカバリーや集中力を確保するのにとても大きな役割を果たしています。緊張で眠れないという選手がよくいますが、選手が試合で緊張するのは仕方のないことです。しかし試合までしっかり練習を積み重ねていれば、前日の睡眠時間が多少短くなっても結果はきちんとついてくると思います。食べ物についても同様で普段通りを意識して下さい。当日朝や直前の食事だけにフォーカスせずに、普段からの適切な栄養摂取を心がけて頂くことが大切です。トレーニング量は、翌日の試合に疲労を残さないためにも、軽めに行ってください。また前日の練習で普段行っていないような練習を行ってしまう人がいますが、普段行っていない練習はしない方が良いでしょう。
Q8.日常のトレーニングの中での『筋肉痛』や『筋肉疲労』に対して、サロメチールの適切な使用方法や効用についてお聞かせください。
A8.筋肉の発達に大切なのは、まず運動をすること。それから栄養を取ること。そして休養を取ることです。この3つを1つのサイクルとして取り組んでいくことで、筋肉は大きくなっていきます。休養を取っている間に、栄養や酸素を疲れた筋肉に運びたい。そのためには、血流量をきちんと確保する必要があります。また運動中も筋肉の血流量が多いほうが好パフォーマンスにつながりますので、血行を改善して筋肉中の老廃物を取り除き、筋肉疲労に効果を表すサロメチールはスポーツの前後に使うのが効果的です。また、塗り込むことで同時にマッサージ効果も得られるのでおすすめです。スプレータイプやローションタイプは手を汚したくない時や塗り込む時間を短縮したいときに便利ですね。
サロメチールジクロシリーズは痛みに対して効果的です。痛みを持ちながら試合に臨む場合などは患部のケアを行いながら臨みたいので、塗りやすくて速乾性のサロメチールジクロローションの使用をおすすめします。
この記事で紹介された製品
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今回の先生
FIET Conditioning
代表栗田 英行さん
経歴
1969年1月28日生まれ。静岡県出身。鍼灸マッサージ師の資格取得後、㈱ピープル(現コナミスポーツ)に入社。同社接骨院に勤務しながら競泳を中心としたトレーナー活動を行う。2008年北京オリンピック・競泳チームのトレーナーとしてチームに帯同。2009年に日本スポーツ振興センターに移り、国立スポーツ科学センター(JISS)で、フェンシング、トライアスロン、バドミントン等の日本代表選手のトレーナー活動に携わる。2017年からはフリーとして活動。2022年に埼玉県・さいたま市に「FIET Conditioning」を開業。スポーツ医学修士。