ニューノーマルな生活における痛みのケア
第3回:「自宅でできる運動と痛みのケア」
2020/09/29
新型コロナウイルスの感染拡大により、これまでの「日常」が劇的に変わりつつあります。その行く末はいまだ不透明ですが、学生にとっては各行事の中止や夏休みの短縮のみならず、受験にも影響が及んでいます。社会人はテレワークが普及し、自宅で過ごす時間が長くなっています。「新しい日常」を模索する中で、これまでに感じたことがない疲れやストレスに悩んでいる人も多いでしょう。そこで今回は、整体院を開業している理学療法士の田野先生に、「新しい日常」に取り入れたい痛みのケアについてインタビューし、その内容を2回にわたり掲載していきます。
有酸素運動でリフレッシュ!子供たちにはゲーム感覚で
Q1田野先生は学生時代、野球をされていて、高校生のときには甲子園出場を果たされたと伺いました。今のお仕事と何か関連はあるのでしょうか。
A1中学生のときから野球を始め、都立高校に進学し、運良くレギュラーとして甲子園に出場することがきました。大学の野球部のセレクションの話もありましたが、中学生のときに肩と肘を壊し、だましだまし野球を続けていたことや、甲子園出場を果たし達成感を得られていたことから、今後は人をサポートする立場に回りたいと考えました。
トレーナーという職業に興味を持ったとき、父から理学療法士について教えてもらい、直感で理学療法士になろうと決めました。専門学校に進み、21歳で理学療法士の資格を取得。卒業後は、整形外科で働き始めました。
Q2スポーツ障害への対応も経験されていると思いますが、何か心に残っていることはありますか。
A2理学療法士として働き始めた年に、パラリンピックの水泳選手を担当させていただきました。その方は、頚椎に問題があり車椅子でしたが、水に入ると私よりもはるかに速く、フォームも美しかったです。人の可能性を目の当たりにし、大いに衝撃を受けた思い出があります。一方で、筋骨隆々のアスリートたちの身体を細かく検査すると、そのパフォーマンスからは想像できないほど筋力の弱いところがあったりします。正しい身体の使い方や強化方法が本当に大事であると感じました。
Q3新型コロナウイルス感染拡大の影響で、学生にはオンライン授業、社会人にはテレワークが普及し、自宅で過ごす時間が増えました。体力の維持や向上のために、手軽にできる運動などがありましたら教えてください。
A3制限がある生活を送るうえで、最も問題となるのはストレスの増大だと思います。例えば、主婦の方は家事や在宅ワークに加えて、介護を必要とする家族がデイサービスに行けなくなることで負担が増えることもあるでしょう。そこで、リフレッシュを目的とした有酸素運動をおすすめします。酸素を取り込む有酸素運動では、副交感神経が活性化されるため、適度な運動量であれば疲れを取り除くことができます。家の階段で昇降運動をしたり、エアロビクスをしたりすることもおすすめです。ヨガやピラティスも呼吸を意識した運動なので、身体がスッキリします。無料動画サイトなどでも多く紹介されているので、参考にしてみてください。お子様がいる家庭は、ゲーム感覚で運動すると良いでしょう。ケンケンで何回飛べるか、目をつむっての片足立ち、または逆立ちを何秒キープできるかなど家族で競うと楽しく取り組めます。簡単で楽しめる運動であれば継続できますし、体力の維持にもつながると思います。
Q4家族の人数や居住スペースなど住宅事情はまちまちですが、狭い場所でもできる効果的な運動を教えてください。
A4スペースが限られている場所ですと、大きな動きを必要としないインナーマッスルを意識した運動をおすすめします。インナーマッスルとは、関節の安定を促す筋肉のことです。代表的な運動としては、プランク(写真2)やブレイシング(写真3)、姿勢をキープしたまま壁を押すエクササイズ(写真4)などがあります。呼吸を意識しながら体勢をキープする運動は、インナーマッスルに非常に効果的です。家族や複数人で行う場合は、手押し車が良いでしょう。体幹から肩甲骨周りのトレーニングになりますし、競争できるのでゲーム感覚で楽しめます。
テレワークによる腰痛や肩こり予防にもストレッチ
Q5家庭用のトレーニングマシンも多く販売されていますが、個人でも気軽に購入できるおすすめのアイテムがあれば教えてください。
A5気軽に購入できるアイテムとしては、ストレッチポールとバランスボールが安価で万能なのでおすすめです。姿勢の改善やバランスを鍛えるエクササイズ、筋トレなどにも使えます。
Q6緊急事態宣言解除後もテレワークを続けている企業があり、慣れない環境の中で、特に腰痛や肩こりを訴える人も増えているようです。予防や対策についてアドバイスいただけますか。
A6正しい姿勢を意識することは大切です。会社ではデスクチェアを使用していても、自宅にはない場合もあります。正しい姿勢とは、身体への負担が少なく、かつ効率的に動ける姿勢のことを言います。そのため、椅子での座位の基準(椅子の高さ、座圧の位置、足の置き方)を知り、正しい姿勢で仕事を行うことが一番の予防策になるでしょう。
また、いくら良い環境で正しい姿勢を保ったまま仕事をしたとしても、同じ姿勢を続けることは身体の負担になります。身体の組織は動かさないと硬くなり、血流が悪くなることで痛みやこりが起こりやすくなります。そのため、定期的に動くことを意識してください。可能であれば、1時間ごとに椅子から立ち、ストレッチで柔軟性を保つことがポイントです。椅子に座り続けていると臀部が圧迫され、下肢の血流が滞りやすくなります。ふくらはぎのマッサージや臀部のストレッチを必ず行いましょう。肩甲骨周りのケアも重要です。腕を回している人を見かけることがありますが、胸郭(胸の周りの骨格)から大きく動かしてください。これだけでも疼痛は軽減できるはずです。ストレッチは狙った部位がしっかり伸びているかどうかを確認しながら行いましょう。もし別の部位に痛みを感じる場合は、危険信号なので、無理して行わないようにしましょう。
Q7在宅時間の増加に伴うメンタル面のケアはどのように考えていらっしゃいますか。
A7非常に懸念しています。県境を越えない、帰省の自粛などこれほどまでの制限は誰にとっても初めてのことです。ストレスが過剰にかかると、身体は常にON状態となり、OFF状態への切り替えがうまくできなくなってしまいます。疲れが溜まっているのに眠れない、疲れがなかなか抜けない、胃腸の調子が悪いなどの症状があらわれることもあるでしょう。これらの症状の解消には、腹式呼吸をおすすめします。特に肺の下側にしっかりと酸素を取り込むように意識しましょう。鼻から息を吸い、口呼吸よりもゆっくり吐きます。お腹をへこませる必要はありません。目をつむり、頭の中を空っぽにした状態で行うと良いでしょう。お腹が膨らむことにより内蔵が動き、身体がOFF状態に切り替わりやすくなります。
また、環境を変え、屋外でウォーキングやジョギングをすることも気分転換になると思います。メンタルケアの専門家によると、努力して楽しもうとすることや楽しむことに罪悪感を持たないことが重要とのことで、私自身、これを意識して日々生活しています。
Q8外用消炎鎮痛薬「サロメチール」は、運動前後の筋肉ケアや腰痛、肩こりなどに効果がある市販薬です。これまでにご紹介いただいた運動の中で有効な活用方法があれば教えてください。
A8生活スタイルが変化し、筋力の低下や体重の増加、慣れない運動で筋肉に疲労物質が溜まり、身体に痛みが生じやすくなっていると思います。痛みを感じる部位をしっかりケアすることは、その後の快適な生活にもつながります。サロメチールなどの外用消炎鎮痛薬は、筋肉痛や関節痛などに効果的でしょう。痛みを感じると身体が硬くなることで血流が悪くなり、また痛みが生じるという悪循環に陥りやすいのです。そのような負のサイクルを一時的に遮断する手段として、市販薬を上手に活用することも効果があると考えます。特に、負荷の高い運動(ジョギングやウォーキングなど)の前には、赤いサロメチールで筋肉をマッサージし、運動後に筋肉や関節に痛みが生じた場合はサロメチールジクロローションなどを患部に塗りましょう。痛いところだけでなく、その周りも硬くなりがちなので、広範囲に塗ると良いと思います。また、痛みが長引くようならサロメチールジクロαのようなテープ剤を貼ることもおすすめします。
この記事で紹介された製品
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今回の先生
NPO法人IPA JAPAN理事・理学療法士田野 悠介さん
経歴
理学療法士として整形外科勤務を経て、2019年7月1日に田野整体院を開設。田野整体院院長。米国のCertificated Functional Manual Therapist(認定機能的徒手療法士)。食生活アドバイザー。整形外科疾患全般に携わる。