これからスポーツを始めようとしている人のためのトレーニング
第9回「スポーツを始めようとしている人へのアドバイス」
2023/04/20
徐々にコロナ禍以前の日常生活が戻りつつあります。運動不足の解消や、体力不足を補うことな どを目的として、これから何かスポーツを始めてみたいと思っている人、またスポーツを始めたばかりの方向けに、スポーツへの取り組み方やトレーニングについて、飛込選手としてアテネオリンピック(2004年、高飛込)に出場し、現在はアスレティックトレーナーとして活躍されている宮嵜多紀理さんにお話を伺いました。2回にわたってご紹介します。
仲間を作ること、楽しみながらやることが長続きの秘訣
Q1.宮嵜さんは、世界選手権(2001年)のシンクロナイズド高飛込で銅メダルを獲得されていらっしゃいます。まず、飛込という競技を始めたきっかけについてお聞かせください。
A1.私には記憶がないのですが、生後6カ月のころに親が私をベビースイミングに入れてくれて、気がついたらいつも水の中にいました。小学校3年生からは体操も始めましたが、そこで「飛込をやってみたらいいんじゃない」と勧められました。「飛込って面白そうだな」と興味を持って見学に行き、「ああ、これ絶対やりたい!」とすぐに魅了されました。そして中学生から取り組むようになりました。
インタビュー中の宮嵜さん
(右側の写真は2003年世界水泳選手権バルセロナ大会出場当時)
Q2.引退後はコーチやトレーナーとして活躍されている宮嵜さんですが、セカンドキャリアについては最初からその道を目指していらしたのでしょうか。
A2.はい。私は選手のころから、いつも目標を立てていました。現役中なら、「オリンピックに出る」「世界選手権に出る」。同時に競技生活を終えた後の目標も立てており、「トレーナーになりたい」と思っていました。アスリートはケガと背中合わせですので、都度、トレーナーさんにケアをしてもらいます。そのときに「あ、こういう仕事っていいな」と、2001年くらいにはなんとなく考えていました。
Q3.そのようにトレーナーを目標とされていた宮嵜さんは、現在公益財団法人日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナーでいらっしゃいます。女性トレーナーというのはまだ数少ないのでしょうか。
A3.少ないです。そのなかで、結婚もして、出産もしている女性でもやっていけるんだよということを、これからの世代の人に伝えていきたいと思います。スポーツ選手であり、妻であり、母としての私の経験は、トレーナーとしてアスリートや患者さんに向き合う場面で非常に役立っていると感じています。
Q4.飛込のコーチとしても尽力されている宮嵜さんですが、トレーナーやコーチとしての経験を踏まえて、これからスポーツを始めたい人たちへのアドバイスをお聞きしたいと思います。家にいる時間が長かったこともあり、「もっと身体を動かしたい」と思いつつも、きっかけが見つからない、どこで何をやればいいのか、継続するのは大変そう等、取り組み方が分からずとまどっている方も多いようです。そんな方たちへ、何かヒントはありますでしょうか。
A4.なかなか難しいですね。スポーツも多種多様にありますが、まず、「一人ではやらないこと」が最初のキーになるかと思います。なんらかのトレーニングにしても、一人ではなかなか長続きしないと思うんです。
アスリートなら「次の大会を目指して」といった目標が存在しますが、一般の方だとよほどストイックな人でない限り、一人で黙々とやるのはつらいのではないでしょうか。ですから友人、仲間、コミュニティ等を活用することで、続けていきやすい状況をつくれると思います。もちろんご家族でもいいですし、一緒に頑張れる人たちがいるといいので、そういうスポーツ仲間を見つけるところから始めてみてください。
二番目が、楽しくできるかどうかです。私は選手のころ、飛び込みという競技が楽しくて仕方ありませんでした。楽しいからこそ、苦しくても頑張れたのです。だから何より、好きで心から楽しめるスポーツであること 。が長続きするための秘訣になるでしょう。はじめはウォーキングやジョギングといった軽めの運動から入り、興味の持てそうなスポーツをあれこれ探してみるのも楽しみの一つかもしれません。「やってみたい」と思うスポーツがあれば、最近は一人でも気軽に参加できるようなコミュニティサイトも多数ありますので、そうしたサイトを検索し参加してみるというのも良いでしょう。
また、初心者の方がスポーツを始めるには基礎を学ぶことが大事なので、専門のスクール等に通うというのも良い方法です。最初は少し気後れするかもしれませんが、基礎を学びながら同じレベルの方々と一緒に汗を流しているうちに、自然とスポーツ仲間になるというメリットもあります。
例えばテニスなどでは近年インドア施設でのスクールも増えてきていますので、天候等に左右されずに定期的に通えますし、レベルに合った運動量で指導して貰えますから、女性や初心者にも取り組みやすいスポーツと言えます。
Q5.最近では、You Tubeやスマホアプリなどでトレーニングのためのコンテンツが充実してきているようですが、それについてはどうお考えですか。
A5.確かにトレーニングにもDX化(デジタル・トランスフォーメーション)の波が来ていますね。トレーニングやフィットネスに関するアプリはそれこそ有料、無料を含めて多種多様あります。
トレーニング方法やスケジュール管理、自身の身体データの管理ができるものや、トレーニングジムに行かないとできないメニューもあります。自宅トレーニング用、通勤時間や休憩中などシーン別のプログラムなども充実しています。本格的に筋トレがしたい人、減量したい人、健康を気遣う人、ともかく身体を動かしたい人等、毎日何分かやるか、何時間やるか、ということも人それぞれですので、自分のレベルとライフスタイルに合わせて選べるでしょう。
スポーツで大切なのはどんな手段であっても、いかに習慣化できるかです。そのためにはやはり自分が「楽しい」と感じられることが重要ですね。でも三日坊主でもいいとも思っています。「合わない」と思ったら、「はい次」と割りきって切り替えればよいのですから。
You Tube等にもトレーニングに関するチャネルが多数ありますので、そうした動画を見ながら、まずは気楽に試してみるのも良いと思います。
Q6.ケガによるものではなくても、慢性的な痛みに悩まされている方もかなりいらっしゃると思います。そんな方たち向けに、日常生活で気をつけておくべきポイントは何かあるでしょうか。
A6.痛みを抱えやすいのは、肩、腰、脚など多岐にわたりますが、なんといっても腰が痛いという方が多く見受けられます。腰痛は腹筋が弱かったり衰えてきたことが大きな原因です。そのための簡単なトレーニングは次回ご紹介しましょう。
まずはトレーニング以前に気を付けていただきたいことがあります。デスクワークの方たちは、いったい一日何時間、椅子に座っているでしょうか? 座りっぱなしにはなっていませんか? データによると、日本人は世界20カ国のうちでなんと1日420分、つまり7時間も座位でいる国民だそうです。もちろん世界最長です。座りっぱなしは健康リスクを高める要因にもなると言われています。
ですから、家庭でも職場でもできるだけこまめに立つようにする。少なくとも1時間に一度は立って歩きましょう。それこそ立つことを促してくれるアプリもあります。また長い会議などで席を外せないときでも、ふくらはぎを軽くもむとか、かかとを上げ下ろしするとか、足を動かすことを意識してみてください。
湯舟に浸かり汗を流すことが新陳代謝に効果的
Q7.年齢とともに体型が崩れていくというお悩みを抱える方も多くいらっしゃると思います。
そのような方たちへは、どのようなアプローチがよいでしょうか。
A7.運動量が減り、代謝が悪くなるというのが原因ですね。スポーツへの意欲はあっても、忙しくて身体を動かす時間がない人もいますし、時間はあるけれども身体を動かすことに踏みきれずついお酒を飲んで終わってしまうというような人もいるでしょう。このようなことが重なり、だんだんとストレスが溜まっていきます。だから先ずはストレスを解消することを心がけるようにしましょう。
トレーナーである私たちは、そういう悩みを聴くスキルも持っています。アドバイスをするというよりは傾聴を心がけています。身体の状態についての質問をしながら、患者さんの現状を把握する情報をできるだけ多くつかんでいくのです。
日常的に自律神経のバランスを整える必要がありますが、アクセルの機能を果たす交感神経とブレーキに該当する副交感神経があり、ストレス高めの人には鍼灸を使って副交感神経を優位にしてあげるということも行います。
Q8.加齢とともに代謝が低下することについて、何か心がけるとよいことはありますでしょうか。
A8.ウォーキング、ジョギング、筋力トレーニングには基礎代謝を上げる働きがあります。ただもっと気軽に心がけてほしいのは、汗をかくことです。年齢を重ねるにつれ、運動量が減って汗をかく機会が減る方が多いと思います。ですからとにかく入浴ですね。湯船に浸かることが大事です。夏場はシャワーで終わらせてしまうという方もいらっしゃいますが、できるだけ湯船に浸かってじんわりと汗をかいていただきたいです。
温かい湯船に浸かると何よりリラックスできますし、身体全体に水圧がかかって血液の流れがよくなりますのでむくみ対策にもなり、疲労回復にもつながります。先ほどお話しした自律神経のバランスを整えるためにも入浴をおすすめします。タイミング的には、寝る2時間前がちょうどいいと言われています。
Q9.日常のトレーニングの中で、サロメチールの適切な使用方法や効用についてお聞かせください。
A9.トレーニング後に塗るというイメージですね。赤いサロメチールには「血行を改善する」効果があります。トレーニング後に硬くなった筋や疲労した部分にサロメチールを使い、血行を改善すると同時に疲労回復を促します。クリームタイプ(サロメチール)やスプレータイプ(サロメチールゾル)、ローションタイプ(サロメチールL)の3種類あるので、身体の部位や使用シーン(広範囲に使う、片手でサッと塗りたいなど)によって使い分けるとよさそうです。
この記事で紹介された製品
今回の先生
株式会社サンイリオス・インターナショナル
アスレティックトレーナー
宮嵜 多紀理さん
経歴
1978年8月23日生まれ。東京都出身。日本大学卒業。元飛込日本代表。2001年世界水泳選手権女子シンクロナイ ズド高飛込で大槻枝美とのペアで銅メダル獲得。2004年アテネオリンピック高飛込にも出場。鍼師・灸師・按摩 マッサージ指圧師。(公財)日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー、(公財)日本オリンピック委員会医科学強化スタッフ