シニア向け健康維持・増進のための運動
第5回「健康寿命を延ばすための効果的なトレーニング」
2021/03/19
コロナ禍においては、高齢者の感染による重症化が懸念されていますが、自粛生活が継続する中で、シニア層が積極的に健康の維持・増進を図ることが重要になってきています。また、国の施策である「健康長寿社会の実現」に向けてもシニア層が筋力トレーニングやスポーツなどの運動を含めた身体活動を行うことが重要視されています。そこで、今回はアスレティックトレーナーとして競技スポーツのチームやアスリートのトレーニングのサポートから、シニア・ジュニア向けの健康対策に至るまで幅広く活動されている、㈱ワイズ・スポーツ&エンターテインメントの山本晃永代表に、シニア向けの健康維持・増進対策についてインタビューし、その内容を2回にわたり掲載していきます。
心も体も元気に輝いて頂く
Q1.山本さんがアスレティックトレーナーを目指されたきっかけは何だったのでしょうか。
A1.大学卒業後は、スポーツに関わる仕事をしたいと考え、フィットネスクラブの会社に就職しました。そこで多くのスポーツ選手と接し、パフォーマンスを上げるための“トレーナー”の重要性を認識したのをきっかけに、アスレティックトレーナーを目指すことを決意しました。
当時はまだ日本にトレーナーの資格がなかったので、アメリカに渡り、全米トレーナー協会公認アスレティックトレーナーの資格を取得しました。帰国後は、Jリーグの選手などとパーソナルトレーナー契約をし、仕事の幅を広げていきました。今の会社を立ち上げたのは2004年。その後、2016年にワイズ・スポーツ&エンターテインメントに社名変更し、現在に至っています。今、競技スポーツのトレーニングのサポートとともに、全力で取り組んでいるのは「健康」と「福祉」です。
施術中の山本晃永氏
Q2.競技スポーツに加え、国民の健康増進分野にまで活動を広げられたきっかけは何だったのでしょうか。
A2.トレーナーとして活動をしていく中で、契約していた選手のトレーニングや、チームの子どもたちのリハビリ環境を作りたいという思いが強くなり、マイクロジムを作ったのがきっかけです。その後、経営の基盤を築くために介護事業にも参入しました。既存施設と提携したのではなく、一から始めたので、保険制度、介護業界のことなど、トレーナーとしての知識以外のことを一から勉強しなければならなかったので苦労しましたが、その経験が現在の活動に生きています。
Q3.事業の一つとして実施されている、「シニア・デイサービス」について教えてください。
A3.高齢者の「介護予防」「自立支援」を目的にデイサービスを行っています。アスレティックトレーナーとしての専門性を活かし、エンターテインメントのプログラムも取り入れた斬新なデイサービスは、超高齢社会の日本に必ず貢献できると確信しています。高齢者の健康と機能低下には「ロコモティブシンドローム*1」「サルコペニア*2」という、運動機能と筋力が落ちていく特性がありますが、これに加え「フレイル*3」には、身体だけでなく精神面の活力の低下も含まれます。私たちのデイサービスは身体も心も元気に輝いて頂くことを目的にしているので、「フレイル」予防には最適なデイサービスだと思います。
*1 ロコモティブシンドローム
運動器の障害や 衰えによって、 歩行困難などの移動機能の低下をきたした状態のこと。2007年に日本整形外科学会によって新しく提唱された概念。
*2 サルコペニア
加齢や疾患により、筋肉量が減少することで、全身の筋力低下が起こったり、歩行スピードが遅くなるなどの身体機能の低下が起こること。
*3 フレイル
加齢により心身の活力(運動機能や認知機能等)が衰える状態のことで、健常な状態から日常生活でサポートが必要な要介護状態の中間の段階を意味します。
Q4.シニア層にとっては“健康寿命をいかに延ばしていくか”が課題となりますが、そのために効果的なトレーニングを教えて下さい。
A4.私たちが「最適運動」とよんでいるトレーニングです。65歳の前期高齢者も80歳後半の後期高齢者も同じ運動が効果的ということはあり得ません。競技スポーツの分野でも、年の差が20歳以上離れた選手ではトレーニングの段階性や強度、量も同じではないはずです。そこで大事にしているのは、トレーナーがマンツーマンで行うパーソナルトレーニングです。その方のどこの機能が落ちているのか、この方は身体にどういう特徴があるのだろうか、というような個人の身体機能を、姿勢を静止画像で撮影したり、簡単な動きを動画で撮ったりして、しっかりと評価していきます。その情報からファンクショナルトレーニング(身体の機能を高めるためのトレーニング)やリハビリで改善し、次に筋力トレーニングを行っていく、という流れでやっています。
パーソナルトレーニング
自宅でもトレーニングを
Q5.シニア層の筋力トレーニングではどのようなことを意識して指導されていますか。
A5.高齢者の筋トレの目的は、筋肉隆々にすることではなく、日常生活の中の諸動作をしっかりと行えるようにすることです。そのほかにも、姿勢を維持すること、内臓を守ること、さらにエネルギーを代謝することも重要な目的です。また、最新のスポーツ科学の分野では、筋肉から“マイオカイン*4”というホルモンのような物質が出て、それが脳や内臓に作用し、認知症やガンの予防にまで結びつくという研究報告もあります。このように、単に筋トレと言っても様々な効果が期待できるので、高齢者にも筋トレが必要なのです。ただしやり方によっては怪我のリスクも伴うので注意が必要です。筋トレによる怪我は、筋肉の収縮方向に対して筋肉が縮むように力を加える「コンセントリック収縮」時より筋肉が収縮方向とは逆に伸ばされながら筋力を発揮する「エキセントリック収縮」時に多いといわれています。例えば、腕などを上げた時よりも下してブレーキをかける動作の時に発生しやすいです。私たちは、エキセントリックな負荷がかからない筋力トレーニングマシンを開発し、スピードをモニタリングしながら、安全かつ効果的にトレーニングを行っています。
*4 マイオカイン
筋肉作動物質のことで、筋肉から分泌される”ホルモン”の総称。近年、マイオカインの作用に注目が集まっており、現在世界中で研究がさかんに行われています。中には、大腸がんを抑制するマイオカインや体内の糖分や脂肪分を効率的に消費するマイオカインがあると報告する論文も発表されています。
筋力トレーニング
Q6.有酸素トレーニングとはどのようなことですか。また、シニア層におすすめの有酸素トレーニングを教えてください。
A6.有酸素運動とは、ウォーキング、ジョギング、エアロビクス、サイクリングなど一定時間継続して行う運動を指します。これらの運動は、運動中に筋を収縮させるためのエネルギーを体内の糖や脂肪が酸素とともに作り出すことから、有酸素運動と呼ばれています。高齢者にも有酸素運動は大切ですが、機能を評価して、どのような有酸素トレーニングが行えるかを選択することが重要です。歩行がしっかりできるようであれば歩行で良いですし、膝や腰が痛くて長時間歩くことができない方は、エアロバイクやニューステップなどのマシンを使うことも効果的です。並行して、ファンクショナルトレーニングやリハビリ、筋トレも行うことで、最も身近な有酸素運動である歩行も徐々に行えるようにしていくのが良いのではないでしょうか。
有酸素トレーニング
Q7.山本さんがトレーニングに取り入れていらっしゃる足部機能向上トレーニングについて教えて下さい。
A7. 歩行やバランス機能に大切な足部の筋力や可動性をトレーニングしていきます。足部機能というのは、今までスポーツの中でもあまりクローズアップされてこなかったのですが、最近では、足の構造や機能について研究されるようになってきました。手では“握力”、足では“把持力”と呼ばれるものですが、これが、歩行する時の推進力や体のバランスに影響してきます。高齢者の寝たきりの原因のひとつとして、転倒による骨折がありますが、その予防として、バランス維持機能である足部をトレーニングしておくことは重要です。トレーニングの前には、効果を高めるために、アスリートにも使用している「高濃度炭酸泉」を「足浴」として提供し、アロママッサージを行った後、足部の筋力や可動性のトレーニングを楽しく行っています。
足部機能向上トレーニング
Q8.コロナ禍で外出を控えているシニアに向けて、自宅や庭などで簡単にできるトレーニングを教えて下さい。
A8.いくつかご紹介しましょう。
インナーマッスルの強化(写真1参照)
一つ目は、椅子に座った状態でボールを太腿にはさみながら、両腕を腰に添え、ウエストを凹ませてぎゅっぎゅっとプッシュする運動です。最初のポジションで背筋をしっかり伸ばし、姿勢を整えた上でウエストを刺激しましょう。そうすることで、多くのインナーマッスルの強化に効果的です。高齢者の方でも簡単にできますのでおすすめです。
股関節の強化(写真2参照)
次は、横になってバンドを両足にはめ、片足ずつ屈曲させる運動です。これを10回から20回、ご自分の体力に合わせて行ってみてください。股関節の強化に効果的です。
腿の筋肉の強化(写真3参照)
最後は脚を前後に開いた姿勢から、前脚のもも前にブレーキをかけるように膝を曲げていきます。この運動も高齢者でも危険が少なく、腿の筋肉強化に効果的です。
今回紹介した運動に使用する器具は、100円ショップ等でも安価に購入できます。
インナーマッスルの強化
股関節の強化
腿の筋肉の強化
Q9.サロメチールシリーズは、運動前後の筋肉ケアや肩こり、腰痛・関節痛などに有効な外用消炎鎮痛薬ですが、山本さんご自身や指導の中でお使いになることはありますか。
A9.スポーツの現場では結構使います。ウォーミングアップでは「サロメチール」を使って血行を良くしたり、トレーニングの後は鎮痛効果を期待して「サロメチールジクロα」や「サロメチールジクロゲル・ローション」などを部位や痛みの範囲に応じて使用しています。サロメチールシリーズは種類や剤形のバリエーションが多く、目的に応じて使い分けられるので助かりますね。
この記事で紹介された製品
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今回の先生
㈱ワイズ・スポーツ&エンターテインメント代表取締役山本晃永さん
経歴
Jリーグ、サッカー日本代表や高校選抜、プロ野球などのトレーナーを経て、2004年の起業後は多くの育成年代チームのサポートやトップアスリート・俳優のパーソナルトレーナーも務める。、そのほか、ジュニアやシニアの運動プログラムの開発、近年ではトレーニングマシンの開発や運動施設のプロデュースも行っている。トレーニング関連著書も多数。日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー、全米トレーナー協会公認アスレティックトレーナー、順天堂大学大学院スポーツ科学研究科修士課程修了。
ニューノーマルな生活における痛みのケア
第4回:「職場や学校でもできる運動と痛みのケア」
2020/12/22
新型コロナウイルスの感染拡大という未曾有の事態により、働く環境や生活様式が大きく変わりました。制限のある生活を送る中で、知らず知らずのうちにストレスが溜まり、身体的にも精神的にも負荷がかかった状態が続いている方もいらっしゃるかもしれません。
さて今回は、前回に引き続き理学療法士の田野先生に、『ニューノーマルな生活における痛みのケア』と題し、職場や学校、通勤・通学といった外でもできる運動や痛みのケアについてインタビューしました。また、メンタルケアに関するアドバイスも紹介いたしますので、参考にしてください。
子どもたちや学生のメンタルケアは、周囲の大人がサポートすることが大切
Q1緊急事態宣言が解除された後、通勤や通学を再開する人も増えていますが、新型コロナウイルスの感染拡大に対してまだまだ不安を抱えている方は多いと思います。そのような中で、身体面や精神面において、注意しなければならない点について教えてください。
A1人間は変化に敏感な生物です。起床時間の変化や靴を履く生活など、些細なことのように見えても、身体にはストレスがかかっています。ソーシャルディスタンスを意識しての通勤・通学は、より多くのストレスがかかるので、当然、痛みや疲労感が出現しやすくなります。電車であれば足を平行に開いて立つ方が多いと思いますが、少しでも足を前後にずらして立つように心がけてください。接地面を広げることにより、バランスが格段に取りやすくなります。車で通勤されている方は、ドライバーズシートの位置や角度をもう一度見直してください。クッションの使用も一考の余地があるかもしれません。マスク・フェイスガードの使用や他人の目など、いつも以上に気が張っているはずなので、「今までとは違う」ことを自覚しましょう。変化に合わせたケアと十分な睡眠が何より大切です。身体に普段と異なる疲労感や痛みが出ることは当然なので、必要以上に不安にならないことが重要です。
写真1 電車の中での立ち姿勢
Q2制限されている生活の中で、体力を維持するために職場や学校などでできる運動があれば教えてください。
A2職場や学校でできることはかなり限られてしまいますので、体力の維持というより、いかに身体への負担を減らすかという部分に焦点を当てた方が効果的でしょう。そのためには、同じ姿勢を長時間続けないことが重要です。中腰や身体を捻った状態でPC作業をするなど、無理な姿勢はなるべく避けるようにしましょう。また、立って行うアキレス腱伸ばしや座りながらできる臀部のストレッチを、1~2時間ごとに取り入れてみてください。これらのストレッチは、約20秒間呼吸を止めず、持続的に行います。通常は2~3回行うことを推奨していますが、仕事中や授業中であることを考慮すると1回でも良いかと思います。
写真2 立って行うアキレス腱伸ばし
伸ばしたい側の脚を後方に引き、踵をつけたままの状態で前脚の膝をゆっくり曲げていきましょう。壁などで身体を支えながら行うことをおすすめします。アキレス腱が伸びていることを感じながら、約20秒間持続的にストレッチしてください。
写真3 座りながらできる臀部のストレッチ
伸ばしたい側の脚を浅く組み、膝を外側に倒します。背筋を真っ直ぐにしたまま身体を前方に倒していきます。臀部が伸びていることを感じながら、約20秒間持続的にストレッチしてください。
写真2 立って行うアキレス腱伸ばし運動
伸ばす側の脚を後方に引き、踵をつけたままの状態で前脚の膝をゆっくり曲げていきましょう。壁などで体を支えながら行うことをおすすめします。アキレス腱が伸びていることを感じながら、約20秒間持続的にストレッチしてください。
写真3 座りながらできる臀部のストレッチ
伸ばしたい側の脚を浅く組み、膝を外側に倒します。背筋を真っ直ぐにしたまま体を前方に倒していきます。臀部が伸びていることを感じながら、約20秒間持続的にストレッチしてください。
Q3デスクワークで肩こりや腰痛を訴える人が増加しているようですが、職場でできる予防や症状を軽減するための効果的な方法がありましたら教えてください。
A3職場においても、正しい姿勢を意識することや働く環境を整えることが大切になります。ただし、自宅ほど自由に環境を変えることはできません。また職場では、ストレッチの時間や休憩を自由に取ることも難しいと思います。そこでおすすめしたいのは、簡単にできる腕から指にかけてのストレッチです。手首のストレッチや指のストレッチ、そして指の間のマッサージは肩こりに効果的です。
写真4 手首や指のストレッチ①
手のひらを上に向け、反対の手で指を持ち、反らすように伸ばしていきます。その際に、肘が曲がらないように気をつけてください。指や前腕が伸びていることを感じながら、約20秒間持続的にストレッチしてください。
写真5 手首や指のストレッチ②
指をかぎ型に丸め、反対の手を使い、指の付け根を反らすように伸ばしていきます。指や手のひらが伸びていることを感じながら、約20秒間持続的にストレッチしてください。
写真4 手首や指のストレッチ①
手のひらを上に向け、反対の手で指を持ち、反らすように伸ばしていきます。その際に、肘が曲がらないように気をつけてください。指や前腕が伸びていることを感じながら、約20秒間持続的にストレッチしてください。
写真5 手首や指のストレッチ②
指をかぎ型に丸め、反対の手を使い、指の付け根を反らすように伸ばしていきます。指や手のひらが伸びていることを感じながら、約20秒間持続的にストレッチしてください。
デスクワークが多い場合は、目のケアも大切です。長時間、近距離で焦点を合わせていると、どうしても肩こりに繋がってしまいます。時々、顔を上げて遠くを見ることやブルーライトカット眼鏡を活用することは、目の疲労を和らげてくれます。目が充血しているときはアイシングで冷やし、眼精疲労のときは温めましょう。これらは、就寝時に行っても効果的ですので、ぜひ実践してみてください。腰痛対策については、椅子の硬さや座圧の位置など前回紹介したA6の内容を参考にしてください。
Q4子どもたちや学生が、学校でできる体力維持の方法やメンタルケアについて、どのようなことに注意すれば良いでしょうか。
A4新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、学校行事のみならず、部活動の短縮や大会の中止が続出しました。それを目標に頑張ってきた子どもたちにとって、どれだけ衝撃的でショックだったことか。私も学生時代は、部活動の大会に向けて努力していた経験があるため、本当に心が痛みます。目標を見失ってしまった子どもたちには、周囲の大人によるサポートが非常に大事だと考えます。まずは、運動もしくは部活動を続ける理由や意義を一緒に考えてあげましょう。体力については、通学や体育の授業などにより、さほど低下は見られないと思いますが、メンタル面に関しては心配です。先生や家族のサポートが重要になりますので、子どもたちに異変が見られないか、いち早く気づいてあげてください。今、大人たちにできることがあるとすれば、とにかく純粋に子どもたちや学生が楽しめることを見つけてあげることです。運動だけでなく、ゲームや趣味でも構いません。先生や家族の皆さんには、ぜひご理解頂きたいと思います。
ストレスが筋肉に与える負担を予防・軽減する
Q5サロメチールシリーズは、運動前後の筋肉ケアや肩こり、腰痛・関節痛などに有効な外用消炎鎮痛薬ですが、有効な活用方法があれば教えてください。
A5長時間のストレスは筋肉を硬くしてしまい、身体に余計な負担を与えます。新しい日常の中で、これまでとは異なる痛みを感じることや別の部位に痛みが生じる可能性がありますので、転倒などのアクシデントに繋がることも考えられます。 ストレス性のこりには、ストレッチや有酸素運動、腹式呼吸によるリフレッシュがおすすめです。ストレスで硬くなってしまった筋肉は、赤のサロメチールシリーズでマッサージしながらほぐしましょう。有効成分のサリチル酸メチルやサリチル酸グリコールが血液の流れを改善するため、運動前のウォーミングアップとしても最適です。筋肉の炎症は、それを自覚したときには実はかなり進んでいる段階です。プロ野球のピッチャーが投球後にアイシングするような感覚で、肩や足、腕や手など痛みを自覚する前から塗っておくと良いと思います。 また、変化する生活の中でストレスを感じている場合は、肩こりや腰痛など痛みを覚える部位だけでなく、その周囲の筋肉も無自覚のまま硬くなっていることが多いので、非ステロイド性消炎鎮痛成分「ジクロフェナクナトリウム」を配合した「塗るタイプ」のローション剤やゲル剤などを少し広範囲に塗布すると良いでしょう。
Q6田野先生は、米国で Certified Functional Manual Therapist(認定機能的徒手療法士)という資格を取得されておりますが、どのような施術を行うための資格なのでしょうか。
A61978年に米国で設立された The Institute Physical Art という組織が認定している資格です。試験は米国で受けるのですが、たくさんの方に支えて頂き、私は2016年に日本で働くセラピストの中で3番目にこの資格を取得できました。本当に感謝しております。NPO日本法人(The Institute of Physical Art Japan)が設立され、3年前から私は法人理事として、機能的徒手療法プログラムの啓蒙活動を行っています。この技術は皆さんがもともと持っている身体の潜在能力を最大限発揮できるよう、身体の構造や神経、筋の機能を向上させ、日常動作やスポーツでのパフォーマンスに繋げていくものです。個人的には内臓に対する施術に関心があり、今でも多くの患者さんに施術を行っています。
写真6 認定機能的徒手療法士の認定証
写真7 IPA JAPANのホームページ
Q7田野先生は、食生活アドバイザーの資格も取得されていますが、新しい日常における食生活について、どのようなことに特に留意すべきか教えてください。
A7「健康は食から」と言われますが、私も食事は非常に大切であると考えています。胃や腸などの消化器系はストレスの影響を多分に受けます。特に小腸は「第二の脳」と言われるほど大切な臓器です。どんなに身体に良いものでも、適度な量というのが食事の鉄則です。またグルテンや精製された砂糖、植物油などは身体を炎症傾向に誘導し、痛みを誘発する場合があるので摂り過ぎには注意が必要です。
Q8最後に、新しい日常における、職場や学校での過ごし方など全体にわたって、痛みのケアに関するアドバイスをお願いします。
A8皆さんにとって、痛みの予防や軽減のためにも運動することは大切です。痛みに対応するために、インナーマッスルを強化し柔軟性を保つことのほか、正しい姿勢や動作の知識をインプットして実行することがポイントになります。ぜひ、今後の生活の中で意識して頂ければと思います。
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今回の先生
NPO法人IPA JAPAN理事・理学療法士田野 悠介さん
経歴
理学療法士として整形外科勤務を経て、2019年7月1日に田野整体院を開設。田野整体院院長。米国のCertificated Functional Manual Therapist(認定機能的徒手療法士)。食生活アドバイザー。整形外科疾患全般に携わる。
ニューノーマルな生活における痛みのケア
第3回:「自宅でできる運動と痛みのケア」
2020/09/29
新型コロナウイルスの感染拡大により、これまでの「日常」が劇的に変わりつつあります。その行く末はいまだ不透明ですが、学生にとっては各行事の中止や夏休みの短縮のみならず、受験にも影響が及んでいます。社会人はテレワークが普及し、自宅で過ごす時間が長くなっています。「新しい日常」を模索する中で、これまでに感じたことがない疲れやストレスに悩んでいる人も多いでしょう。そこで今回は、整体院を開業している理学療法士の田野先生に、「新しい日常」に取り入れたい痛みのケアについてインタビューし、その内容を2回にわたり掲載していきます。
有酸素運動でリフレッシュ!子供たちにはゲーム感覚で
Q1田野先生は学生時代、野球をされていて、高校生のときには甲子園出場を果たされたと伺いました。今のお仕事と何か関連はあるのでしょうか。
A1中学生のときから野球を始め、都立高校に進学し、運良くレギュラーとして甲子園に出場することがきました。大学の野球部のセレクションの話もありましたが、中学生のときに肩と肘を壊し、だましだまし野球を続けていたことや、甲子園出場を果たし達成感を得られていたことから、今後は人をサポートする立場に回りたいと考えました。
トレーナーという職業に興味を持ったとき、父から理学療法士について教えてもらい、直感で理学療法士になろうと決めました。専門学校に進み、21歳で理学療法士の資格を取得。卒業後は、整形外科で働き始めました。
Q2スポーツ障害への対応も経験されていると思いますが、何か心に残っていることはありますか。
A2理学療法士として働き始めた年に、パラリンピックの水泳選手を担当させていただきました。その方は、頚椎に問題があり車椅子でしたが、水に入ると私よりもはるかに速く、フォームも美しかったです。人の可能性を目の当たりにし、大いに衝撃を受けた思い出があります。一方で、筋骨隆々のアスリートたちの身体を細かく検査すると、そのパフォーマンスからは想像できないほど筋力の弱いところがあったりします。正しい身体の使い方や強化方法が本当に大事であると感じました。
Q3新型コロナウイルス感染拡大の影響で、学生にはオンライン授業、社会人にはテレワークが普及し、自宅で過ごす時間が増えました。体力の維持や向上のために、手軽にできる運動などがありましたら教えてください。
A3制限がある生活を送るうえで、最も問題となるのはストレスの増大だと思います。例えば、主婦の方は家事や在宅ワークに加えて、介護を必要とする家族がデイサービスに行けなくなることで負担が増えることもあるでしょう。そこで、リフレッシュを目的とした有酸素運動をおすすめします。酸素を取り込む有酸素運動では、副交感神経が活性化されるため、適度な運動量であれば疲れを取り除くことができます。家の階段で昇降運動をしたり、エアロビクスをしたりすることもおすすめです。ヨガやピラティスも呼吸を意識した運動なので、身体がスッキリします。無料動画サイトなどでも多く紹介されているので、参考にしてみてください。お子様がいる家庭は、ゲーム感覚で運動すると良いでしょう。ケンケンで何回飛べるか、目をつむっての片足立ち、または逆立ちを何秒キープできるかなど家族で競うと楽しく取り組めます。簡単で楽しめる運動であれば継続できますし、体力の維持にもつながると思います。
Q4家族の人数や居住スペースなど住宅事情はまちまちですが、狭い場所でもできる効果的な運動を教えてください。
A4スペースが限られている場所ですと、大きな動きを必要としないインナーマッスルを意識した運動をおすすめします。インナーマッスルとは、関節の安定を促す筋肉のことです。代表的な運動としては、プランク(写真2)やブレイシング(写真3)、姿勢をキープしたまま壁を押すエクササイズ(写真4)などがあります。呼吸を意識しながら体勢をキープする運動は、インナーマッスルに非常に効果的です。家族や複数人で行う場合は、手押し車が良いでしょう。体幹から肩甲骨周りのトレーニングになりますし、競争できるのでゲーム感覚で楽しめます。
テレワークによる腰痛や肩こり予防にもストレッチ
Q5家庭用のトレーニングマシンも多く販売されていますが、個人でも気軽に購入できるおすすめのアイテムがあれば教えてください。
A5気軽に購入できるアイテムとしては、ストレッチポールとバランスボールが安価で万能なのでおすすめです。姿勢の改善やバランスを鍛えるエクササイズ、筋トレなどにも使えます。
Q6緊急事態宣言解除後もテレワークを続けている企業があり、慣れない環境の中で、特に腰痛や肩こりを訴える人も増えているようです。予防や対策についてアドバイスいただけますか。
A6正しい姿勢を意識することは大切です。会社ではデスクチェアを使用していても、自宅にはない場合もあります。正しい姿勢とは、身体への負担が少なく、かつ効率的に動ける姿勢のことを言います。そのため、椅子での座位の基準(椅子の高さ、座圧の位置、足の置き方)を知り、正しい姿勢で仕事を行うことが一番の予防策になるでしょう。
また、いくら良い環境で正しい姿勢を保ったまま仕事をしたとしても、同じ姿勢を続けることは身体の負担になります。身体の組織は動かさないと硬くなり、血流が悪くなることで痛みやこりが起こりやすくなります。そのため、定期的に動くことを意識してください。可能であれば、1時間ごとに椅子から立ち、ストレッチで柔軟性を保つことがポイントです。椅子に座り続けていると臀部が圧迫され、下肢の血流が滞りやすくなります。ふくらはぎのマッサージや臀部のストレッチを必ず行いましょう。肩甲骨周りのケアも重要です。腕を回している人を見かけることがありますが、胸郭(胸の周りの骨格)から大きく動かしてください。これだけでも疼痛は軽減できるはずです。ストレッチは狙った部位がしっかり伸びているかどうかを確認しながら行いましょう。もし別の部位に痛みを感じる場合は、危険信号なので、無理して行わないようにしましょう。
Q7在宅時間の増加に伴うメンタル面のケアはどのように考えていらっしゃいますか。
A7非常に懸念しています。県境を越えない、帰省の自粛などこれほどまでの制限は誰にとっても初めてのことです。ストレスが過剰にかかると、身体は常にON状態となり、OFF状態への切り替えがうまくできなくなってしまいます。疲れが溜まっているのに眠れない、疲れがなかなか抜けない、胃腸の調子が悪いなどの症状があらわれることもあるでしょう。これらの症状の解消には、腹式呼吸をおすすめします。特に肺の下側にしっかりと酸素を取り込むように意識しましょう。鼻から息を吸い、口呼吸よりもゆっくり吐きます。お腹をへこませる必要はありません。目をつむり、頭の中を空っぽにした状態で行うと良いでしょう。お腹が膨らむことにより内蔵が動き、身体がOFF状態に切り替わりやすくなります。
また、環境を変え、屋外でウォーキングやジョギングをすることも気分転換になると思います。メンタルケアの専門家によると、努力して楽しもうとすることや楽しむことに罪悪感を持たないことが重要とのことで、私自身、これを意識して日々生活しています。
Q8外用消炎鎮痛薬「サロメチール」は、運動前後の筋肉ケアや腰痛、肩こりなどに効果がある市販薬です。これまでにご紹介いただいた運動の中で有効な活用方法があれば教えてください。
A8生活スタイルが変化し、筋力の低下や体重の増加、慣れない運動で筋肉に疲労物質が溜まり、身体に痛みが生じやすくなっていると思います。痛みを感じる部位をしっかりケアすることは、その後の快適な生活にもつながります。サロメチールなどの外用消炎鎮痛薬は、筋肉痛や関節痛などに効果的でしょう。痛みを感じると身体が硬くなることで血流が悪くなり、また痛みが生じるという悪循環に陥りやすいのです。そのような負のサイクルを一時的に遮断する手段として、市販薬を上手に活用することも効果があると考えます。特に、負荷の高い運動(ジョギングやウォーキングなど)の前には、赤いサロメチールで筋肉をマッサージし、運動後に筋肉や関節に痛みが生じた場合はサロメチールジクロローションなどを患部に塗りましょう。痛いところだけでなく、その周りも硬くなりがちなので、広範囲に塗ると良いと思います。また、痛みが長引くようならサロメチールジクロαのようなテープ剤を貼ることもおすすめします。
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今回の先生
NPO法人IPA JAPAN理事・理学療法士田野 悠介さん
経歴
理学療法士として整形外科勤務を経て、2019年7月1日に田野整体院を開設。田野整体院院長。米国のCertificated Functional Manual Therapist(認定機能的徒手療法士)。食生活アドバイザー。整形外科疾患全般に携わる。
運動前の効果的な準備
第2回:「試合前日や当日の朝の過ごし方」
2020/06/23
2020年に開催されるはずだった東京オリンピック・パラリンピックが、史上初の延期となりました。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大は、社会全般、トップアスリートのみならず、私たち1人ひとりの日常生活にまで影響を及ぼし、その在り方を見直すきっかけとなっています。感染症に負けない体づくりのために免疫力を高めることや健康な心身への希求は、今後ますます重要なものとなっていくでしょう。
さて今回は、前回に引き続きアスレティックトレーナーの桑井先生に、『運動前の効果的な準備』と題して、大切な試合の前日や当日の朝の過ごし方についてお聞きします。普段の運動や日常にも役立つ情報もご紹介していきますので、ぜひ参考にしてください。
眠れなくても横になっているだけで良い
Q1試合前日の就寝前や当日の起床後はどのように過ごすと効果的でしょうか。ストレッチを含め、食事、睡眠時間などについて教えてください。
A1大切な試合の前日ですと、就寝直前にものを食べるのは良くありません。もっともこれは試合前日に限らず、一般的にも好ましくありませんね。消化してから寝るのが鉄則です。就寝直前に食べると胃腸に負担がかかり、筋肉に血液が行き渡らず、翌日のパフォーマンスに影響してしまいます。試合前日の夕食は、特に早い時間に食べることをおすすめします。それで空腹を覚えることもあるでしょう。そのときは「食べてはダメ」ではなく、脂っこくない炭水化物や果物などの補食を飲み物と一緒に摂取すれば良いのです。
お酒は就寝中や翌日の脱水を誘発するおそれがあります。アルコール分子は水より小さく細胞に浸透するので、細胞の中は水がなくなり外にたまってむくみとなりがちです。試合前日のアルコールは原則禁止にして、終わってから楽しく美味しく飲むのが良いでしょう。
試合前日のアルコールはNG
就寝前の食事は極力控える
Q2入浴で気をつけることは何かありますか。
A2試合前日は基本的に長湯はしないようにします。疲労感や倦怠感が出てしまう場合もあるので、さっと身体を洗う程度にして、終わったあとにしっかり湯船に浸かるのが良いですね。
Q3睡眠についてはいかがでしょうか。
A3睡眠が実はいちばん大事です。しかし、何時間寝ないとダメなどと決めないこと。それがものすごくストレスになるのです。気がついたら朝の3時、4時になっているという焦りこそ、パフォーマンスの最大の敵です。大切な試合の前日はまず緊張して眠れないのが普通。それを前提に、横になっているだけでも効果はあると考える余裕こそが大事なのです。
スポーツに限らず、受験や大事なイベントを翌日に控えている人にも同様のことが言えます。
Q4ストレッチや身体のケアに関しては、どのような点に気をつければ良いでしょうか。
A4ストレッチに関しては個人差があるので、時間などでの管理はしていません。気をつけたいのは、内容やタイミングですね。身体のケアは、前日だからこうしなさいというフォーマットのようなものがあるわけではありません。できるだけ日常的にやっていることをやる。逆に言うと、そのために日ごろからルーティンをしっかり決めて習慣づけておくことが大切です。例えば、普段は飲まない刺激の強い飲み物とかテーピングやサポーター、慣れないウエアなどは避けた方が良いでしょう。本番で実力を出すというのは、日常で習慣化させているパフォーマンスをいかに発揮するかなのです。ですから前回ご紹介したウォーミングアップについても、日ごろやっていないものがあるのなら避けたほうが良いと私は思います。
流れをルーティン化しておく
Q5では当日の朝はどのようなことに気をつけるべきでしょうか。
A5まず起きたら散歩をするようにします。身体を起こすために、すぐに1回外に出て歩きます。ジュニアの合宿などでも、習慣化させるために「はい、まず散歩」とよく歩かせたりしています。次は体操。そして食事。逆算して3時間前に起床して、これらを行います。その後移動してから、ストレッチやウォーミングアップを行うというのが一連の流れになります。これはもうどの競技種目やレベルであっても、ほぼパターンは決まっているはずです。毎回、異なるやり方をしているようであれば、流れをルーティン化しておきましょう。
Q6ルーティンはそれほど重要なのですね。では、前日の夜や当日の朝など、それぞれ効果的な筋肉ケアがあれば教えてください。
A6ストレッチなどにプラスして、例えばサロメチールを筋肉や腱に対して狙いを定めて使うと、特に有効ではないかと感じています。こちらも習慣化がポイントになります。マッスルラブには血行を促す赤のサロメチール、運動終了後に筋肉痛などが残った場合はサロメチールジクロローションやサロメチールジクロαでケアするなど、日頃から用途に応じた使い分けを意識することが大切ですね。あとは試合の前だからどうのというよりは、普段から気になる自分の身体の問題点やウイークポイントに対して、アプローチするようにすると良いでしょう。
Q7試合前の選手の様子から発揮できるパフォーマンスがある程度予測できることはあるのでしょうか。
A7プレッシャーをかけられてもおかまいなしに、「行くぞ」と燃える勝負師のような選手がいます。私が担当させてもらった選手の代表例が北島康介選手ですね。またそうでない選手もいます。メンタルについては、指導者によって心まで含めてコーチングする方もいれば、パフォーマンス面以外は本人に任せる方もいる。私たちトレーナーの立ち位置は、指導者のコーチング法によって変わってきます。
Q8トレーナーとしては、指導者のコーチングメソッドを理解しながら選手と接するということですね。
A8はい。私はアスレティックトレーナーの仕事とは別に、鍼灸院で一般の方たちの症状に接し、また理学療法士としてリハビリテーションや運動療法も行っています。そして現場に行けば、選手の治療やトレーニングをやります。最近では、コーチの方はコンディショニングのことをよく学ばれていて、選手自身も知識や情報をいろいろ集めています。指導者・選手・トレーナーの関係において、重なる部分が増えてきています。ですから3者がお互いの役割をうまく理解しながら、トップアスリートをサポートしています。これからは、トップアスリートだけでなく一般の方の健康増進の面においても、貢献していきたいと願っています。
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今回の先生
公益財団法人 日本スポーツ協会 公認アスレティックトレーナー 桑井 太陽 さん
経歴
Jリーグ、バスケット実業団トレーナーを経て、2001年から水泳日本代表チームトレーナーを務め、2016年リオデジャネイロオリンピックほか多くの国際大会でチームに帯同。理学療法士。鍼灸マッサージ師。 公益財団法人 日本オリンピック委員会・医科学強化スタッフ。 株式会社サンイリオスインターナショナル代表取締役。サンイリオス桑井鍼灸治療院院長。
運動前の効果的な準備
第1回:「運動前のウォーミングアップ」
2020/03/31
2019年に開催されたアジア初のラグビーワールドカップは、「にわかファン」を取り込む大きなブームとなりました。さらに、東京でのオリンピック・パラリンピックの開催を控え、日本ではスポーツ全般への関心度が高まってきています。
スポーツには「する」「見る」「支える」などの要素がありますが、「する」につきものである怪我を最小限に抑えるための事前準備についての意識や知識はそれほど高くありません。
そこで今回は、アスレティックトレーナーの桑井先生に『運動前の効果的な準備』についてインタビューし、その内容を2回にわたりご紹介していきます。
ウォーミングアップは自分のペースで
Q1桑井先生は、オリンピックをはじめ、多くの国際大会に帯同されていらっしゃいますが、志したきっかけは何だったのでしょうか。
A1私は中学2年生の頃からトライアスロンをしていました。高校3年生のときにバルセロナオリンピック(1992年)で、選手達の活躍を見て、「オリンピックを舞台にした仕事がしたい」と思ったことがきっかけです。トレーナーという仕事があることを知り専門学校に通い、鍼灸マッサージ師の資格を取得しました。その後、理学療法士の資格も取り、北京オリンピック(2008年)から水泳の日本代表チームに帯同するようになりました。
Q2ウォーミングアップの大きな目的は何ですか。
A2なんと言っても、怪我の予防です。筋肉疲労を残さないためと思われがちですが、これはどんなに入念に行っても、運動をすると必ず起こるものです。むしろどう除去していくかが主眼で、クーリングダウンやアフターケアの部分で対処するべきと考えています。
Q3ウォーミングアップはどのような点に気をつけて行えば良いでしょうか。
A3私は2つのことを重視しています。1つ目は、「自分のペースをつくること」。人に合わせず、自分の方法論を確立するよう伝えています。2つ目は、順番や手順において、「自分のルーティンをつくること」です。
Q4チーム競技か個人競技かでの違いはありますか。
A4チームならば、身体だけでなく、サイキアップ(気持ちを高揚させ、やる気を起こす)も大切です。ロッカールームで円陣を組んで声を出すのもそうです。チーム全員でのウォーミングアップに加えて、個別のルーティンを確立することも提案しています。
個人競技では、例えば水泳では水中のウォーミングアップもありますが、その前に「ドライランド」という陸上でのトレーニングを行います。以前はストレッチぐらいしか行っていませんでしたが、2008年頃から、体幹を鍛える補強運動など怪我をしないための機能的なトレーニングを取り入れるようになりました。
■エクササイズプログラム(ドライランド)
立位両腕回し
関節・肩甲帯全体をほぐす
肩入れ(パートナー)
肩関節・脊柱(胸椎)の伸展の向上
背中合わせ
肩関節・脊柱(胸椎・腰椎)の伸展の向上
肩入れ(棒)
肩関節・肩甲帯・脇腹可動域の向上
トランクツイスト
肩甲骨周囲から胸部、胸椎の可動域の向上
慌ただしさは大敵、準備は余裕をもって
Q5ウォーミングアップを行うベストな時間帯はいつでしょうか。
A5これも種目差、個人差がありますね。1つ言えるのは「慌ただしさ」は大敵だということです。通常、練習や試合時間から逆算して考えます。例えばマラソンの場合、食事は3~4時間前にとり、なるべく早く会場に着くようにします。大会当日は人も多いし、トイレも混んでいますが、ゆっくり過ごす時間があれば、どんなときでも慌てずに済みます。選手には、準備を全て終えた後、身体も心も落ち着かせ集中する時間が必要なのです。
Q6ウォーミングアップでの筋肉の効果的なケアとして、気をつけるべきことは何ですか。
A6筋肉と向かい合うときに意識するべきポイントは、深さ(深度)です。筋肉の深いところはストレッチで動かせます。でも表面の部分、筋より浅い腱組織へは効かないんですよね。脚なら足首周り、アキレス腱、手首、肘など末梢の腱組織は、浅めのアプローチが必要なので、サロメチールのような血行を促すクリーム剤を使います。マッスルラブ(rub=こする)をしてあげる、つまり筋肉をこすると良いのです。
Q7身体の部位ごとに、効果的な準備を教えてください。
A7体幹、上肢、下肢と3部位に分けて考えてみましょう。体幹は、一般的な準備体操を立って行うことがポイントです。2人で背中合わせで立ち、屈んで相手を引っ張り上げるのも良いですね。ウォーミングアップはすなわちウェイクアップで、身体を目覚めさせる働きがあります。次は上肢です。床に這いつくばるような運動をかなり取り入れています。アリゲーター(鰐)やクマ(熊)など、いわゆるアニマルワークアウト(動物の動きを取り入れたエクスサイズ)はよく行います。最後に下肢です。ここまでで脚はずいぶん使っていますし、あとは軽く走ったりジャンプや縄跳びだけでも良いでしょう。これらをマニュアル化し、ルーティンワークにしておくと、ウォーミングアップだけでなく、日常のトレーニングでも使えますね。運動終了後、筋肉痛などが残った場合には、サロメチールジグロローションなどで痛みを緩和させることもできます。
■アニマルワークアウト
アリゲーター
肩甲帯・胸郭全体の筋力向上・腰部のストレッチ。肩甲骨の動きを安定させる「前鋸筋」の機能向上に役立ちます。
動作方法
四つん這いになり、片手と片脚を交互に出し腰を高く保持し前進する。
スパイダー
股関節・胸郭・脊柱のストレッチ、上肢下肢の筋力向上に役立ちます。
動作方法
四つん這いになり、片手を前に出したら反対側の脚を前に出し全身沈め、交互に動かし前に進む。
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今回の先生
公益財団法人 日本スポーツ協会 公認アスレティックトレーナー 桑井 太陽 さん
経歴
Jリーグ、バスケット実業団トレーナーを経て、2001年から水泳日本代表チームトレーナーを務め、2016年リオデジャネイロオリンピックほか多くの国際大会でチームに帯同。理学療法士。鍼灸マッサージ師。 公益財団法人 日本オリンピック委員会・医科学強化スタッフ。 株式会社サンイリオスインターナショナル代表取締役。サンイリオス桑井鍼灸治療院院長。